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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
480/1603

3r

 本部へと到着した一行だが、今回は前回のように人の壁が用意されることもなく、何事もなく足を踏み入れることとなった。

 しかし、入ってすぐの右手側にある広間はいつもと違う様相を呈している。

 大図書館の本棚を想わせる、背の高い依頼ボードは取り外されており、大部屋全体に毛布などが敷き詰められていた。


 部屋の四分の一、左手前の区画には避難民と思われる者達が邪魔者であるかのように、脇に押しやられている。

 残る四分の三は負傷した冒険者の治療所となっているらしく、仕切りや手術室すら存在しないタコ部屋状態だ。


 水属性での治療ならともかく、外科手術でさえ、床で寝ている者の真横で直接行っているというのだから重篤だ。


「受付がこの状態か、たまんねぇな」

「みんな、大丈夫かな……私にも何か──」

「ティア、それはまた後で。今はこっちの問題を解決しないと」


 そんな一言で納得すれば、彼女は必要なかっただろう。カルマ騎士隊が今まで成立してきたことは、まさしくこうした必然性によって成り立っている。

 結局、その場にへばりついていたティアを引き剥がすまでに、かなりの時間を要すことになった。


 上層に行く為の階段で職員と遭遇するが、有名な冒険者が二人もいるとあって、これを呼び止めるようなことはなかった。

 末端の職員は冒険者ギルドで何が起きているのか、彼らがどうしてこの場に現れたのかすら知らないのだろう。

 ギルドマスターの部屋を見て嫌な顔をしたのは、なにもティアだけではない。彼女を推薦すべく、ウルスは意図せぬ時期に訪れているのだ。

 両名、二度とこの場には来たくはないと思っていただけに、互いの相棒が先導の役割を負うこととなった。


 ノック、返答の確認、相方に覚悟を決めさせ、エルズとクオークは一緒に扉を押し込む。

 待っていた──約束を取り付けていないので、そうであるとは限らないが──のは、当然なことにギルドマスター。

 エメラルドの瞳を称えた少女は睨み勝とうとしているのか、印象に強く残った眼鏡の老人をジッと見つめ、眉を吊り上げて怒ったような顔をする。


 視野が狭くなっているのは彼女だけの話であり、ウルスのほうは冷静にもう一人に目を向けていた。こちらは感情にブレがない。


「サイガー、だったか? 随分と用意周到じゃねえか。俺達が来るのもお見通し、ってか?」

「ええ、そうなるように仕向けさせていただいたので。ですが、不思議ですね……私の予定では、どちらかが──はい、具体的にはあなただけがこの場に現れる予定でしたので」


 彼が指し示した先にあったのは、黒と金色で構成された立派な紙箱だった。

 蓋は開けられており、中にはチップ状の薄くスライスされた乾燥魚が収められている。東部地方の特産品ともいえる上質な酒の(さかな)だ。


「お一人分しか用意できておりません。大変申し訳ありませんが──」

「そんなものを俺が食うと思っているのか?」

「ええ、怪しいとしかいいようがないわね」

「結構おいしいよ? ……あっ、うん! 怪しいんだよっ!」


 ギルドマスターを除いた全員が各々に呆れを示す仕草を見せた。

 ティアはそんな様子に困惑しながらも、皆の顔を確認していき、最後にはその場を取り繕うように腕を組んで頷いた。


「いや……ティア分かってないよね?」

「うんっ!」


 阿呆な二人に付き合っていては話が進まないと、即席パーティの年長者が話の流れを戻す。


「……こちらの用件はただ一つ。サイガー、お前は魔物と──闇の国と絡んでいるのか?」

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