関わっていく者達
──光の国。北東部の城、ソル。
馬車に揺られ、そこに辿りついたアルマは御者と疲れ切った馬車馬を言葉で労い、付近の村までは向かえるようにと術を発動する。
「《光ノ二十九番・陽溜》」
暖かな日だまりを思わせる光が体に触れた瞬間、疲れという邪が浄化されるように、全身に血が巡り出した。
肉体の活性化、そして身体面での疲労除去が行われたのだ。
その効果で肉体が完全復活するが、精神面への影響は二重の濾過を行った後のように、薄いものとなっていた。
それでも、苦痛を伴う旅を少々は追加せざるを得なかったのだから、何よりもありがたいことだったに違いない。
「ありがとうございましたぁ」
深々と頭を下げると、彼女はその場を後にした。
割り切りで消えてもおかしくない、ただの待機時間。そんな馬車の旅を思いだしながら、アルマはきれいだった風景などを思い浮かべている。
「(あの麦畑はきれいだったなぁ……美味しいパンもあるのかな)」
その場所で育てられている麦は酒類に加工される為、子供が関わることはすくない。
それでも、彼女は風に踊らされる麦の穂を──先端がしなっていることさえ分からず、陸で波立つ金色の海で色々な想いを馳せていた。
森の中を少し歩くと、城門に辿りつく。
入口があるのは森を進んだ先だけであり、そうでない場所から回り込もうとすると壁登りを行う羽目になる。困難でなくとも、無礼であるのは彼女も承知だ。
番兵は表には立っていない。魔物の襲来に備えてか、彼らは壁の裏に隠れている。
外部からの侵入者がいる場合も、空を渡り、地を鳴らしながら現れる魔物にも気付けるのだから十分な体制といえる。
「アルマです!」
礼儀正しい──年齢ではなく、見た目で言えば──挨拶を行うと、隠れていた者達が現れた。
レザーチュニックを装備した兵士が三人。この防具の選択も、魔物対策が行われていることを如実に示している。
光の国に住まう《星霊》、プラントフォックスの外皮──根や枝や茎などで織ったもの──を用いており、破損しても自動的に修復される機能を持つ。
注釈を入れるが、この皮はウェットリザード、ドライリザードとは違い、奪命後に剥ぎ取る類ではないのだ。
こうした形式に近いのは、契約に基づいて羽根を引き抜く風翼獣など。
話が逸れてしまったが、番兵の一人はアルマをつれて城内へと誘った。
進む最中で出くわす者の多くが兵を伴っており、それぞれの防具──金属鎧などの者もいる──に紋章を刻んでいる。
国家が一体となっているのだから、こうでもしないと見分けがつかないのだ。
兵の全員が一つの勢力に属す雷の国、現在はフォルティス王のトップダウン──ワンマン体制の水の国などと比べると、光の国は貴族毎に枝分かれしている。
だからこそ、指揮系統の維持にこのような手間が掛かる──というのは建前と理論的な回答であり、彼らは己の主の名をあげるべく、このようにしているのだ。
行き交う者達は足早に動き、多忙具合を表しているようにも見えた。だが、姫であり巫女の少女が視界に入ると同時に足を止め、頭を下げていく。
形式と敬意の混じった挨拶に対し、彼女は誰にでも同じような仕草──不自然に子供らしい──で返していた。




