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「……導力を弾として発射する機構か」
「その完成系、ですね。導力さえ存在すれば、無尽蔵に射撃が行えます。一応、旧来の付加も可能です」
付加、とは導力を弾丸に纏わせ、打ち出す技術のことだ。俗に魔弾と言われ、火薬の精度を補う為に用いられていたこともある。
とはいえ、この弾丸ナシで打ち出せる銃というのは非常に便利だ。使用者を選ぶとはいえ、充填時間を短く攻撃を行えるのだから。
ガンスミスは慣れたような手つきで、マガジン内に差し込んでいた透明な棒──羽根ペンの細さだ──を取り出すと、机に置かれていたうっすら黄色を含ませた透明管を差し込んだ。
「属性毎にレンズを切り替えなければなりませんが、善大王様の属性には対応しております──現状は風と光だけですが」
「……なら、受け取っておこう」
術に命を懸けてきた彼とて、合理性を重んじればここで受け取るのが最適だと思えば、それに従う。
頑固にも見えるが、譲れないものを最終的には譲った、と考えると相当に柔軟なことが分かるだろう。
……とはいえ、多々使用する来はないらしく、試しに使用してみるという程度の認識だろう。その結果がよければ、主力兵装になることも吝かではないはずだ。
部屋を後にし、ヒルトの眠っている居室を目指す。
襲うつもりはなくとも、彼女の身が本当に保証されたかどうかが気になっているのだろう。
しかし、そこで待っていたのはフィアだった。睡眠中の人物を護衛するなど、健気なこと極まれるが、彼女にその意図があるとは思えない。
「なんで私が優先じゃないの!」
「……フィアか」
蒸気でも吹き出しそうな勢いの金髪少女を視界に収めながらも、軽んじているからか、信頼しているからか、当初の予定通りというように人工金髪の方に近づいた。
「(あいつがこの子を助けようとしたのは……本当に銃の為だったのか?)」
「ん? ライト、なにか悩んでるの?」
「……ああ、いつかの秘術使いが現れた」
「えーっ!」
「そして、この子を守る為に俺と共に戦った」
「えーっ!」
「奴の考えを、俺は理解することができなかった。ただ信じただけだ」
思い悩む善大王とは対照的に、フィアは眉を寄せている。
「なんで私を起こしてくれなかったの?」
「そっちかよ!」
「だって! あんな人よりも私の方が頼りになるの! 絶対!」
怒ってばかりのフィアを見て、彼は心を改めた。
彼女を信頼しているからこそ、面倒毎の多い人物として放置していたのは事実だった。
依存性が抜けつつあると理解したからこそ、そうした対応を取っているし、フィアも自分なりに折り合いはつけて動いている。
しかし、こうも心休まることがないとなると、それはそれで不憫であると思ったのだろう。
「フィアにはヒルトを守っておいてほしかったんだ」
「……でも」
「それは建前だ。本音は、休んでおいてほしかった。最近、ロクに休めてないからな」
微妙な変化だった。ただ、彼女はしっかりとそれを理解した。
「私に気を遣わなくていいんだよ、ライト」
「……ああ、悪い」
「怒っているのはストレス解消なだけだから」
「それもどうなんだ……いや、俺はいいけどさ」
ほんの少しだけ、戦前の空気を思い出せたような感触を覚え、善大王は偽りのない笑みを浮かべた。




