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──雷の国、ラグーン。
「情報操作の影響は大きいと見ます」
「意図したところではないですが、好都合ですね」
雷の国の首脳陣が集い、広いダイニングルームで──半数以上の椅子が使われていないが──会食を行っていた。
灰色の麺が乗せられた木製の水切り、黒褐色のスープが注がれた小さなボウルが各人の前に置かれており、見る限りでは少なからず食された痕跡がある。
平和な光景とも思えるが、実状としては内々に行われる戦略会議といっても過言ではない。現に、食を楽しんでいるのは二人だけだ。
「にびの雷獣って奴を見てみたいし」
そう言いながら、スープに浸した麺を啜っているのはライカだ。
「仲間にバカスカ攻撃を直撃されてるみたいだし、近寄らないのが吉だと思うがね……少なくとも、あたしゃ近づきたかないよ」
要人である巫女の隣席を取りながらも、栄養補給が優先とばかりに顔の向きを変えず、マカロニのグラタン──どうにも、不気味な色の食事が不満だったらしい──を平らげていく。
そんな最中に返事をする辺りは、無礼ながらも律儀ともいえる。
「アンタはそいつのこと知ってんの? なら教えるし」
「おやおや、ビリ姫も気になるのかい?」
「その呼び方はやめるし……ただ気になるだけ、邪魔になった時にぶっ飛ばせるように」
ラグーンの切り札にして、主戦力の人間としては真面目な、それであって真剣な理由だ。
ただ、そんな彼女を滑稽に思っているのか、守銭奴の仕事人はケラケラと笑いながら返す。
「ひどい物言いだねぇ。それじゃまるで、あたしも相当ピンチみたいに聞こえるよ」
「雷の国にちょっかいさえ出さないなら、アンタの始末はあとにしといてやるし」
快活に笑い、アカリは額を突いてみせた。
「なーに偉そうなこと言ってんだよ。いっつも捕まってたビリビリ姫がさー」
「もう昔のあたしとは違うし」
「ならそれで構わないよ。今は軍に付いてた方が金儲けできるしねぇ」
軍内部では正規兵、契約的には傭兵という扱いなだけに報酬は凄まじいようだ。
「……アンタはいつまでこの国につくつもり?」
冗談のような気配は完全に消えていた。ライカは生存の道筋を見いだしたからこそ、かつて以上に周囲が見えていたのだ。
特に、拠点である雷の国が陥落するようなことになれば、開発も満足に行えなくなると見ているのだろう。
「さぁね、金が吸える限りはついといてやるよ。負け戦になるようなら、その時は縁の切れ目ってことで」
軽率な発言を咎め、紫色の瞳で睨みつけるが、視界で揺らめく二本の炎はその行動を嘲笑しているようにみえた。




