10
「試練はこんなもんじゃな。手を抜いていたが、二人相手にここまで戦えれば十分じゃろ」
「これで俺は魔物に勝てるのか?」
「勝てる、とは言っておらん。飽くまでも時間稼ぎ程度ならば出来る、といったところじゃな。一度言ったと思うが、一人で相対しようとする相手ではないんじゃよ、その時は誰かに頼るといい」
ティアは一人で戦っていた、と言いかけたが、それは口の中で留めた。
巫女は人間とは隔絶した実力を持っている。それを言われてもなお、俺でもできるなんてことを言う気はない。
「善大王、修行が終わったからって調子乗るって無理するんじゃないわよ」
「なんだ? 俺を心配してくれているのか? いや、ありがたいばかりだ。ミネアが俺に心を開いてくれるなんてな」
「仮にもあんたは弟弟子だからね。ま、そうじゃなくてもフィアのこともあるから」
「フィア?」
「なんでもない」
「そっか。まぁ、俺はそろそろ帰るとするか。国の仕事を任せっぽなしにするのもアレだしな」
ただ、その前に闇の国に寄って聖堂騎士と合流しなくてはならないな。俺が呑気に修行をやってしまったものだから、彼等の到着するタイミングとかち合ってしまった。
強くなったというよりは視野が広がった程度だが、それでも元同僚の手助け役には十分だろう。
「……もしも闇の国に行くようなことがあったら、注意しなさい」
いきなり言われ、俺は驚いていしまった。
「なんでそんなことを言うんだ?」
「ただの老婆心よ。それと、向こうじゃ子供に手を出さないのが得策ね」
「病気が多いとは聞いていないが?」
「そう言うことじゃなくて――とりあえず、覚えておきなさい!」
俺は頷くと、二人に頭を下げてから王宮へと向った。
番兵も俺については知っているらしく、何も言わずに通してくれた。
「善大王殿、何用か」
「馬車を貸してくれないか? そろそろ、俺はこの国を出ていく」
「そうか、碌な相手ができなくて申し訳なかった」
「いや、そうでもないさ。ヴェルギンからは多くのことを教えてもらった」
魔物に勝てるかどうかは実際に戦わなければ分からない。しかし、以前よりかは可能性があるように感じている。
「うむ、それでだな……ミネアの件だが」
「あの件については俺が早計だった。許してくれとも言う気はない、問題があるなら光の国が賠償を支払おう」
「そのような無粋な話をしたいわけではない。善大王殿が良ければ、ミネアを嫁にもらってはくれないかと思っただけだ」
娘を襲おうとした奴にそんなことを言うなど、あまりに無策すぎる。
「状況が状況だと言え、俺はミネアを襲った人間だが?」
「相手が善大王殿なら文句はないのだ。それをきっかけに光の国との協定も図れる、ミネアには鞘に収まっていて欲しいというのもあるが」
そうは言われても、俺は幼女と結婚する気は一切ない。
束縛する気もなければ、されたいという願望もない。自由気ままに舞い、その日その日で楽しい夢に酔えれば十分だ。
「嬉しいお誘いだが、遠慮しておく。ミネアは姉弟子、友人のような関係だ」
「……そうか、考えが変わったらいつでも言ってくれ」
俺は冗談のように頭を下げてみせた後、王宮を後にした。
外に出ると早々に馬車が用意され、俺はゆっくりと乗り込んだ。
行き先は雷の国、そこからは定期船で闇の国に渡って聖堂騎士と合流……結果を伴って会うわけではないので気まずいが、それは良しとしよう。
発進し、揺れる馬車の中、俺は疲労感に押されて眠りについた。