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「よっ、ライカ」
会議終了後、善大王はなんの気もなく彼女に話しかけていた。フィアとは後で落ち合うという約束をしているだけに、この場に現れることはない。
ただ、ここには真剣な雰囲気は感じられず、純粋に友人として話しかけているようにみえた。
「何のつもりだし……アタシの前に顔を出せるなんて」
「いやぁ、俺は振られても気にしないタイプだからな。愛人がダメなら友達から、ってな」
「……最低」
「隣人愛を持った素晴らしい善大王、って呼んでもいいぜ?」
微妙な変化とはいえ、ライカの鋭い気配に減退が感じられる。少なくとも、この男になにをいっても無駄と悟ったことは、明らかだ。
そして、自分が振ったのだということを自覚したのだ。
「それに、ライカも受け取ってくれたみたいだしな」
片膝をつくと、女性の髪を改めるかのように、橙色のマフラーを撫でる。
「……あのハーディンとかいう富豪から受け取っただけよ」
「善大王様から──ってメッセージもついてただろ?」
上陸を実行するよりも前、明確な信頼を勝ち得たのはこの点だった。
善大王は作戦を提案してきたハーディンに対し、前金とばかりに指定した品を届けることを要求している。
冗談にも対応できるような人間、ということで合理主義者の善大王は彼を買ったのだ。両国の橋渡しなど、通常の感性では行えない。
「変態がここにきた理由、アタシになら吐けるんじゃん?」
「えっ? ああ、ただ善大王の権威を知らしめるだけさ。みーんなが善大王さまーって称えるようにな」
「それだけ? フィアから何かを掴んで、それで来たんじゃねーの? で、アタシを利用する為にこんなのを──」
「いや、利用するつもりなんてない。それを望むなら応えるが、ライカはこの国で精一杯だろ?」
望むならば応える、それはまさしくあの時の夜と同じだった。
いくら短絡的で、もっとも子供らしいライカとはいえ、その意図程度は理解できる。それを行った際、どちらにとっても利益にならないことも。
「遠慮しておくし。アタシは多忙だから」
「多忙なくらいがちょうどいいだろうな。そうしている間は、いやなことを忘れていられる」
見透かされたのか、と訝しむが、善大王が見切っていたのはその点ではない。
「理由は分からないが、ライカが苦しんでいるのは分かる」
「フィアは?」
「女性と話している最中に他の子の話をしていいのか?」
「茶化すなー!」
憤り、スパークを迸らせたビリビリ少女を宥めつつ、善大王は目を逸らしながら言う。
「あいつはいつも通りだ……本当に、いつも通り」
「(本当に、あの子は恐れていないっての? なんで、なんで死ぬのが怖くないのよ──善大王がいるから? コイツの為に死ねるって思ってるから?)」
今の自分にはなくとも、彼女は一度だけ、それを覚えている。だからこそ、そうであってもおかしくないと分かるのだ。
改めて溜息を──「ふんっ」と腹を立てていることを示すような仕草をしてみせる。
落ち込んでいるのではなく、生意気なことに怒っている。《雷の星》である少女が、戦場で敵味方を焼き払う雷火が、ただ一人の男に向ける反応を迷い、虚栄を張ることを選んだのだ。
「さ、地下の町に向かおうじゃないか。どうせ、ライカも呼ばれてるんだろ?」
「アタシは……いい、もう寝る」
「そうか、お疲れさま」
「(また見透かされた)」とライカは怒り心頭になる反面、内情を知らずに自分を理解してくれた存在に暖かい感覚を抱く。




