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──ラグーン城、会議室にて……。
左右それぞれに等間隔で十脚の椅子を備えられる、長細い楕円形テーブル。床はグレーで、硬めのカーペットを敷いているようだ。
これだけだとさほど異様に感じないかもしれないが、部屋の各所には異世界の文化が取り入れられている。
椅子も、机も、鱗のようなカーテン──上から下へと向かっているので、垂れ幕のようにも感じる──も、全てが再生されたものなのだ。
ただ、座る場所は多く、部屋も広いと言うのに、六人はこじんまりと纏まっていた。
「善大王様、無事に送り届けていただき、ありがとうございました」
「ああ、礼には及ばない」
王としての礼儀はここで留まらず、次は水の国の船長へと向けられる。
「我が国のご無礼、お許しください。そして民の受け入れ、感謝いたします」
「この状況、助け合えるのであればそうするのが常識。そうでしょう」
「そう言っていただけるとありがたいです」
フィアには反応を示さないが、それに関しては誰も異存がなかった。なにせ、向かい合うライカが相手を引き受けているのだから。
「さて、社交辞令はここまでにしよう。船長殿への恩義も後にして、今は重要な情報から聞きたい」
「……はい」
「まず、大陸の情勢はどうなってる?」
これには船長も興味があるらしく、黙って傾聴の姿勢に入る。
「……魔物の襲来は依然として──いえ、規模こそは縮小していますが、頻度は上昇傾向にあります」
「奴らの目的が変わったのか?」
魔物の目的は誰も分からないので、答えはない。憶測を挟む場面でもない。
「水の国の状況は」と船長。
「現在、両国の状況はあまりよくありません──いえ、二カ国どころか、三カ国全体が孤立しています」
「大体な状態、もしくは若干の噂もないのか?」善大王は気を利かす。
「……現状、大きな変化はないかと。冒険者ギルドが率先して各地の処理を送っている、正規軍がフォルティス王の下で戦闘を開始している……噂はありますが、事実の確認はできていない、という状況です」
あんまりな状況だからか、問いを発しながらも口を噤むしかなかった。
通信術式を使いながらも、上層部とは繋がらないだけに情報の不十分は否めない。そこでようやく、大陸に戻ってきて真実を知られるかと思いきや、この結果だ。
意気消沈する恩人を尻目に、善大王は続けるように質問を投げかけた。
「ライカを通じ、各国の状況を知っているわけではないのか?」
名前が出た途端、黙ってアホ毛をぶつけあっていたライカの表情に、明確な変化が現れる。
「……やるべきことだけは果たしてるつもりだし。どーせ、みんなアタシと同じ風じ思ってるんじゃん?」
「確認は取っていない、ってことか」
「……フン、知らないし。そーいうのはフィアに聞けばいいし……仲いーんでしょ?」
どうにも、彼女は相当に機嫌が悪いらしい。それも、外的な要因ではなく、彼によってそうなっている。
それもそのはず、彼女は一晩を共にしているのだ。……にもかかわらず、その男の隣にいるのが、自分ではないというのが、気に障って仕方がないのだろう。
善大王としても、フィアとの関係を重視すると決めたからには、二股という不義な行動はできない。
相手の想いを拒絶せず、自ら振らせるように仕向けた。一夜の伴侶に対する気遣いであることは、明白だ──他の少女を抱きつづけている時点で、滑稽にしか思えないが。
「天の巫女様、いかがでしょうか?」ラグーン王は気にせずに聞く。
「私も内情は知らないの。少なくとも、水の国が残っていることは間違いないし、大きな被害が出ていないのも事実──でも、貴族内のゴタゴタで余計な被害が出ている、ってことは聞いているわ」
よくない情報のようにも思われたが、船長は胸をなでおろした。
二人の責任を持った人間が発言をしたからには、間違えのない事実なのだから。故郷が消滅し、帰る家を失うということにもならない。
そしてなにより、貴族の不和は今に始まったことではないのだ。
「……すみません、ひとついいですか?」
挙手をした一人によって、場の空気は入れ替えられた。窓が開かれずに、それであって壁を打ちぬいたかのように、急激な変動だった。




