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──雷の国、ラグーン港にて……。
「おー集まってるなー」
「……ごめん」
警告や威嚇砲撃が行われる中、フィアは命中軌道のものを次々と打ち落とした。
「ライカへ連絡は?」
「……してない。忘れてた」
「だろうな──だろうな」
彼らは今、定期船には乗っていなかった。
ボロボロな定期船を引いているのは、一隻の戦艦。
水属性を用いた流体操作によって、ロープや鎖だけで牽引を行うことを可能としている。……謎の船が定期船を鹵獲したようにしか見えないのだが。
簡単な連絡にも思えるが、これが行われたのは二日か一日前のこと。
突如停止した定期船は、風に流されて移動することを余儀なくされていたが、ちょうどよく現れた水の国の巨大船に発見されることで窮地を脱したのだ。
歓迎パーティやら、善大王に言い寄る女性船員を払う忙しさで、フィアは連絡することを忘れていたのだ。
船員達も陸地に戻る口実を手に入れたと、異常に盛り上がって危険性への考えが不足していてた。
どうにも、彼らは開戦直後に海に出され、ずっと偵察をしていたのだという。戦闘を避けながら本国に状況を伝えるのが役割だ。
その為に非戦闘員が多くは配備され、コックや娼婦、果ては詩人から奇術師が乗せられていた始末だ。
さて、こうした状況において、不安を抱いている人数は何人だろうか。
「善大王様、どうにかならないのですか!?」
航海士の若い男は言うが、善大王はどうしようもならない、というような仕草を見せた。
「とりあえず、この防御で気付いてくれるのを待つしかないだろうな」
律儀な話のようにも思えたが、彼の言葉は決して当てずっぽうではなかった。
繰り返される砲撃──優に百発程が発射された時点で、ようやく攻撃は停止する。
上陸までは後少し掛かるという距離であり、まだ善大王達を視認できていないことだろう。
『善大王様、ですか?』
「おっ、やっとか……そうだ。少々騒がしい到着になってしまったが、どうにか」
通信術式を送ってきたのは、ヒルトの父親だった。
『定期船は……?』
「魔物の攻撃を受けて、どうにも動かなくなったみたいだ。こっち関係は門外漢だから、修理はそっちに任せる」
『ええ、持ち帰ってくださっただけでも満足です』
これは、最初から分かっていた内容だった。
善大王としてはあの一度の輸送で大陸人を送り返せた。
ヒルトの父も、この船が戻ってくるだけで目的は果たされる。
もう、定期船が大陸を渡ることはない。
『上陸許可は申請しました。安心してください』
「おう」
この時点で振り返り、白い法衣を翻しながら大声で叫ぶ。
「上陸が可能とのことだ。安心して寄港するとしよう」
水の国が出発した地点はセルなのだが、陸への──大陸への帰還という意味では大きく外れてはいなかった。
上陸早々、避難の声が飛び交うことになったが、それが続いたのは乗員が船から降りていくまでの間だった。
軍艦から次々と、雷の国の国民が降りてくる。念の為にと最前線にした為か、これに続く他国の大陸人達もまた祝福を受けながら故郷の土を踏んだ。
ほどなく、ラグーン王が到着し、善大王とフィア──さらには戦艦の船長を城へ招くとのことを大々的に発表した。
上陸許可を伝えたのが警備軍だけであり、その結果最悪な寄港式になってしまったのだから、そのお詫び──そして過ちを繰り返さない反省行動だろう。
船員達は自由な行動が許可され、再集結をするまでの間、雷の国で休憩を行うこととなった。
最初こそは他国からの侵入者の扱いだったが、家族を連れ帰ってくれた勇者達、という認識が広まるまでに時間は掛からなかった。
かくして、善大王の大陸到達と帰郷作戦は成功に終わった。




