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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
452/1603

5E

 ──雷の国、ニカド周辺にて……。


「……動きが見られます。《不死の仕事人》が動き出したのでしょうか?」


 発言した者の()に写るのは、円鏡だった。

 それが一つだけではなく、いくつも同じ者(・・・)が並んでいるというのだから、不気味と言わざるを得ない。


「早めるしかあるまい……決行を」


 その場に控えていた警備軍は百人、後続から数千規模が来る予定ではあるのだが、こうなってしまうと戦闘を始める他ない。


 全員はあえて散開し、行おうと思えば支援ができる範囲の距離を取った。その上で、全方位攻撃を波状的に開始する。

 先陣を切ったのはフランク。手にはオリジナルモデルの大型拳銃が握られており、一見するに武装の薄い兵の突入が演出された。


「なんだ、お前は! お前が拠点を攻撃した侵入者か!?」


 敵なのか味方なのか、男なのか女なのか、顔がわからない上、自分の顔を反射させてくる相手を前にして闇の国の兵は混乱する。

 会話すら行わず、何の躊躇いもない射殺が行われた。

 大きな発砲音と同時に、対峙していた男の胴体は弾け飛び、命を終える。

 そうして進行していき、同じように殺していくと、目の前で仲間を肉塊に変えられた恐怖で逃げ出す兵が出始めた。

 鏡面の兵はその場を動かず、未だに戦おうとする者達を一人ずつ抹殺していく。

 接近さえ許さず、《魔導式》も展開せず、おぞましい速度で放たれていく銃弾はまさしく死の象徴だった。

 一発一発が大砲の一撃にも匹敵しかねない一撃を放っているというのに、フランクの体は全く揺るがない。

 姿勢や基礎筋力、固定技術の問題などではなく、両手が上がる程度の反動こそが元々の性能だったのだろう。


 視界には死体の山の他に、黒い点がいくつか写り込んでいた。

 左上にある無数の黒点の内、中央の一つだけが点滅しており、円形の点が一斉にその地点を目指して動き出す。

 ちょうど先程の兵が遭遇したのだろうか、フランクの近くにきた黒点が動きを止めた。


 銃を構えたまま、片手でベルトのサイドバックルについた半円──露出していない部分を考えれば、円形かもしれないが──の板を回し、押し込んだ。


『あの……短……間で来……と? あり……ない』


 音は遠く、それでも相手の発言している内容は聞き取れる。

 本来は各兵が通信を行う為に装置であることもあり、周囲の音を拾うことを目的としていないのだ。

 ただ、これだけでラグーン王の計画が功を奏したことが分かる。

 不気味な外見の兵が出現し、それらが超高速で動いているのではないか、という錯覚を与える作戦。

 冷静に考えればあり得ないのだが、それ自体は余興に近い。本命は個人の判別を不可能にし、能力を計れなくなること。

 雷の国の兵は決して優秀ではなく、その点でいえば闇の国が正常に戦っていれば、まず負けることはないだろう。

 しかし、フランクのような強者を混じらせることにより、相手がその実力を持った敵なのではないかという疑念を与える。

 大半の兵に銃を配備させている関係からか、その疑念で二、三発の余裕ができる。

 射撃の練度をあげた兵からすれば、その弾数で一人は殺せる。この奇妙な軍団は、そういう考えで使われていた。


 ある程度の被害を与えると、フランクは全回線に繋ぎ、撤収命令を出す。

 優勢からの急な撤退を受け、闇の国側も混乱が隠せないらしく、動きを止めた。おそらく、全員が命令を待っているのだろう

 ただ、彼らは統率と機構を用いているが、それでも一人の指揮官が数名に指示を送らなければならない。それも、上からの指示をさらに仰ぐ必要があるのだ。

 一部の兵は自律的に戦闘を開始するが、背を向けて走る戦友を別の兵士が援護する。

 二人制でこれらを繰り返し、一気に距離を稼いでいくのだ。そうしていく間に、全員がニカドの町の外に出る。

 ここで本当に撤退していれば、相手も追いはしなかっただろう。しかし、百人は一カ所に集まっていき、射撃の壁を作り出したまま動きを止めていた。

 同時期に闇の国側は対策を打つことを決定し、全兵力を持ってこれを撃退することとなる。

 これは事実というだけではなく、フランク達も知っていることだった。


「早めに行ってもらいたい……連絡は」

『こっちも逃げ回ってたんで、仕方がないってことさ』


 その声はアカリのものだった。彼女はまだニカドの内部に潜伏しており、気付かれないように相手の司令部を監視している。

 あの戦闘の最中、指示を求めて一部の兵がある一点に移動していた。この臨戦態勢では魔力の制御も疎かならしく、目視せずともその動きは手に取るように分かる。

 こうして司令部を特定してからは、魔力を完全に断ち、見に回っていたのだ。


「逃げろ……危険を察知し次第」

『あたしゃ今にも逃げたいところだがね。それに、奴らの総攻撃も流したんだ、ここにいる意味はないだろうさ』

「司令官の脱出を確認してからだ……離脱するのは」

『ハイハイ、カオナシ兄さんの命令には従いますよーっと──それと、例のは用意できているかい?』


 コクっ、と頷くが、それは向こうには届いていない。だが、無言でも意図は通じていた。


『ま、この戦いのカタがついてからだねぇ……ま、あたしゃ子守で忙しいんで、あとは任せとくとするよ』


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