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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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 焦りを隠せない少女を後目に、仕事人は黙々と作業に移り、軟性の強い飴に木屑を混ぜ始める。


「ねぇ、あれって……あの子のことだよね?」

「だろうね。ま、運が悪かったってことさ」


 薄情なことを言いながら、屋根板を木屑混じりのキャンディーで接合した。

 表面に浮き出た部分は備え置きの果物ナイフで削り、ポーチの中で小さく畳まれていたストッキングで粗めに研磨した。

 多少の違和感こそあれど、こうした作業を行う道具を持っていないからには怪しまれない。手荷物検査もまた、彼女の読みの範疇だった。

 調べてみても、見つかるのは少し食べられた──としか思えない──キャンディーなどのお菓子類、衣類、携帯用チョコレートバー──キャラメルやナッツが入った、エネルギー補給用お菓子──が見つかる程度だ。

 いや、それ以外に見つかるかもしれないが。


「アカリ、守れないの?」

「守れない。守れば、あたしらが危なくなる」


 偵察を完璧に終える為には、ここで子供を見捨てなければならない。

 見つからずに彼を救い出すことは可能だとしても、それを行えば余所者の自分達が疑われ──裏で動く人間の存在を知らせてしまう。

 少女を連れ、子供を見捨て──それらの行動は雷の国らしくない、非人道的な行動だ。故に、些事として放置されやすい。

 今までいくつかの拠点を巡りながらも、それが知られていない──女二人組という報告すらないのは明白──のもまた、こうした思考を外す手段を用いていたおかげだ。


「感情だけでは動かない。それが諜報員のやり方さ……って、先輩が言ってたものだねぇ」

「でも、アカリはナットの村を助けてくれたよね」

「……あれは早計だったかね」

 言いながら、茶化すような表情をする。「王様のヘリクツに付き合わされちまったよ」

「動いたことじゃなくて、そっちが問題なの?」

「もちろん。あの村は落としていた方が安心だったからねぇ──あんたの護衛を果たすに当たっては」


 情が移って行動したように見えたアカリは、やはり打算を考慮した上で動いていた。

 ヒルトはそんな彼女の姿に失望し、落胆するように部屋で一つのベッドに入る。ランプがついたままだからか、毛布にくるまって。


「消すかい?」

「いい」

「強がらないことだよ。まぶしくちゃ眠れないだろう?」


 眠りに落ちようとする少女の為か、明かりを消し、椅子に座って目を閉じた。

 沈黙の中、他の部屋からは歩く音などの生活音が聞こえてくる。

 真っ暗闇に慣れ、柔らかい毛布をくしゃくしゃにし、蠢くだけだったヒルトが顔を出した。


「明かりがないと眠れない」

「眩しいじゃないかい? それに、暗い部屋の方が疲れも取れるってことも知らないのかい?」

「……小さいのつけてくれればいいよ」


 目を閉じたままのボディーガードはすっと立ち上がり、ランプに手を触れることもなく、恐がりの少女の横に入った。

 若干窮屈ながらも二人は収まり、毛布から体が出るようなことも起きずに済んだ。


「アカリがないと眠れないんだろう? まったく、甘えん坊な子だねぇ

「そうじゃないのに」と小声で呟く様に笑い、アカリは彼女を抱きしめる。

「愛しているわ」

「……」


 光はなくとも、そこにある熱量に安堵したのか、緑青色の瞳は瞼に覆い尽くされた。


「(本当に愛しているわ……カネズルのお嬢さん)」


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