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焦りを隠せない少女を後目に、仕事人は黙々と作業に移り、軟性の強い飴に木屑を混ぜ始める。
「ねぇ、あれって……あの子のことだよね?」
「だろうね。ま、運が悪かったってことさ」
薄情なことを言いながら、屋根板を木屑混じりのキャンディーで接合した。
表面に浮き出た部分は備え置きの果物ナイフで削り、ポーチの中で小さく畳まれていたストッキングで粗めに研磨した。
多少の違和感こそあれど、こうした作業を行う道具を持っていないからには怪しまれない。手荷物検査もまた、彼女の読みの範疇だった。
調べてみても、見つかるのは少し食べられた──としか思えない──キャンディーなどのお菓子類、衣類、携帯用チョコレートバー──キャラメルやナッツが入った、エネルギー補給用お菓子──が見つかる程度だ。
いや、それ以外に見つかるかもしれないが。
「アカリ、守れないの?」
「守れない。守れば、あたしらが危なくなる」
偵察を完璧に終える為には、ここで子供を見捨てなければならない。
見つからずに彼を救い出すことは可能だとしても、それを行えば余所者の自分達が疑われ──裏で動く人間の存在を知らせてしまう。
少女を連れ、子供を見捨て──それらの行動は雷の国らしくない、非人道的な行動だ。故に、些事として放置されやすい。
今までいくつかの拠点を巡りながらも、それが知られていない──女二人組という報告すらないのは明白──のもまた、こうした思考を外す手段を用いていたおかげだ。
「感情だけでは動かない。それが諜報員のやり方さ……って、先輩が言ってたものだねぇ」
「でも、アカリはナットの村を助けてくれたよね」
「……あれは早計だったかね」
言いながら、茶化すような表情をする。「王様のヘリクツに付き合わされちまったよ」
「動いたことじゃなくて、そっちが問題なの?」
「もちろん。あの村は落としていた方が安心だったからねぇ──あんたの護衛を果たすに当たっては」
情が移って行動したように見えたアカリは、やはり打算を考慮した上で動いていた。
ヒルトはそんな彼女の姿に失望し、落胆するように部屋で一つのベッドに入る。ランプがついたままだからか、毛布にくるまって。
「消すかい?」
「いい」
「強がらないことだよ。まぶしくちゃ眠れないだろう?」
眠りに落ちようとする少女の為か、明かりを消し、椅子に座って目を閉じた。
沈黙の中、他の部屋からは歩く音などの生活音が聞こえてくる。
真っ暗闇に慣れ、柔らかい毛布をくしゃくしゃにし、蠢くだけだったヒルトが顔を出した。
「明かりがないと眠れない」
「眩しいじゃないかい? それに、暗い部屋の方が疲れも取れるってことも知らないのかい?」
「……小さいのつけてくれればいいよ」
目を閉じたままのボディーガードはすっと立ち上がり、ランプに手を触れることもなく、恐がりの少女の横に入った。
若干窮屈ながらも二人は収まり、毛布から体が出るようなことも起きずに済んだ。
「アカリがないと眠れないんだろう? まったく、甘えん坊な子だねぇ
「そうじゃないのに」と小声で呟く様に笑い、アカリは彼女を抱きしめる。
「愛しているわ」
「……」
光はなくとも、そこにある熱量に安堵したのか、緑青色の瞳は瞼に覆い尽くされた。
「(本当に愛しているわ……カネズルのお嬢さん)」




