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散策を終えた二人は宿屋に泊まることにし、部屋に入ってそうそうにヒルトはベッドに腰掛け、アカリは処々の作業を行い始めた。
部屋に探知式がないことを確認し、天井板を抜き、そこから余所の客室を覗きに行けるようにと。
天井裏の材木を削り、木屑を取ることも忘れずに、彼女は全ての用意を夜食の時間までに終わらせた。
今回の宿では夜食と朝食が振る舞われる。昼は表のマーケットに赴き、それぞれにご勝手に、がルールのようだ。
晩餐の席に集っていた者の多くが旅人らしく、商人や冒険者、子供を連れた夫婦までいる。
特に会話が行われることもなく、平時はカフェの用を成していたと思われる一階では、部屋単位で丸いテーブルが用意されていた。
突出したところもない食事をあっという間に食べ終え、急ぎ気味にかっこんでいくヒルトの様子を窺うアカリは──意地悪な姉のようにも見える。
食べている最中に興味を抱いていたのか、男の子がヒルトの傍に寄ってきた。年齢は、彼女よりも少し下だろうか。
「お姉さん、どこからきたの?」
「あたしかい? あたしゃねぇ──」
「おばさんじゃないよ?」
指先で机を何度も打ち付けると、彼の親らしき二人が席に着いたまま、頭を下げるような動作をした。
「……アルバハラから」
「遠いところ……だよね?」
「首都、ラグーンの近く。あんたの言う通り、遠いところだよ」
今度は補足だったからか、おばさんという無慈悲な返しはない。
「ぼくはセルから来たんだ。せんそうが始まっちゃったから、その前に準備しなきゃって」
「セル……?」
「こっからずっと北の町」
もはや通訳や解説役でしかないアカリは、二人組の子供の世話を無料で引き受けさせられていた。
「……い、つきたの?」
「少し前だよ。それから、ずっと泊まってるんだよ」
「ずっと? 帰らないの?」
「ママとパパがでちゃ行けないって──」
「よし、パツキン。さっさと部屋に戻るとするよ」
少年の言葉を遮り、一人席を立つアカリに視線は集中する。
「でも、まだ……」と、残った野菜類に視線を落とした。
「わかんない子だねぇ、あんたが男の子と付き合うのはまだ早いのさ。あたしすらまだ独り身だっていうのに、生意気だよ」
まさに意地悪な姉という様子で、心残りのありそうな表情をする二人の子供を引き離し、二階の部屋に戻っていった。
「もったいない、って前に言ってたのに。アカリ、言ってることが滅茶苦茶」
「細かいこと気にするもんじゃないよ! ……でも、あの話題は避けるべきだったねぇ」
水の国では部分的な戒厳令が敷かれているが、この雷の国には人を縛るルールは存在していない──冒険者ギルドでさえ、その例外ではない。
そのような状況で軟禁を余儀なくされている以上、裏に何かがあるのは明白だった。
「悪い人が閉じこめている?」
「そ、だから口を出さないのが正解さね──ま、今回はそうとも言えないけど」
「え?」
「子供二人が話したおかげで、怪しい奴を炙り出せたってことさ」
ここまでは理解できたヒルトも、アカリの意図や考えは分からないらしく、首を傾げる。




