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──洋上の何処かに浮かぶ定期船にて……。
「さて、フィアはどうしたほうがいいと思う?」
「この問題は重大ね……」
水龍とイカ──もちろん魔物だが──を撃破した二人だが、当面は抱えるであろう問題の対処に奔走し、どうしたものかと頭を抱えているところだった。
とりあえずは、と乗客を船内に押し込んではいるが、席数が三つ不足していたという状況。
それ以外が無事に着席できているだけに、席分配にはなかなか考えるところが多い。
「よし、今日はあの子と寝よう」
「なんでよ! 私で──は、やだけど……でも、それは……うーん」
二人が問題にしていたのは、席に関することではなかったようだ。
船は動き出しており、乗客が船内に入っていることも事実。つまりは、問題が解決された後である。
そんな時に甲板へ出て、話している内容が夜伽についてだというのだから、呆れずにはいられない。
「そ、そうだ! ライト、あの部屋にはいっぱいの子がいるんだから──」
「選び放題だな」
「違うよ! 気まずいじゃない……うん、教育によくない」
「学園を退学したお前がよく言う」
「ぐむ……」
睨みあった末、二人は気を取り直すかのように咳払いをした。これが同時だったのだから、相性の良さは言うまでもない。
「ライト、たぶんこの船は長く持たないと思う」
「同感だ。十中八九、持って雷の国付近……どころか、下手したらその前で止まる」
島を拝むことなく、船が停止することになれば非常に困った事態になる。具体的には、救援を呼ぶことができなくなるのだ。
かの通信でさえ、ライカと定期船推進派の者、この二人以外は警戒されて受け取ってもらえないのだから。
「繋いでおいたほうがいい?」
「いや、それは後に回しておいてくれ。事情は知らないが、推進派との折り合いもある」
「えっ?」
この疑問は当然のもので、相手から聞いていないのか、どういう折り合いなのかという意味を含めていた。
そもそものところ、ライカと推進派は全くの別モノなのだ。王政側はこちらの入国、定期船の返還を受理したにすぎない。
形としては、光の国側が善意としてこの危険な航海、大陸人の輸送を行っていることになっていた。
善大王としてもその方が都合がよく、移動に要する経費もその富豪が負担しているだけに、呑まない理由のない取引だった。
それを瞬間的に考え、フィアに汲み取らせるように促したからか、金髪少女は空色リボンを揺らしながら理解の意を示す。
「……でも、なんでその人は詳しい事情を話してくれないの?」
「必要がないから、だろうな。プランや条件提示などがしっかりしている辺り、黙っている諸所の事情は国の内情──勢力的な問題だろうな」
他国どころか、身内でそんな駆け引きを行うのは愚としか言いようがないが、貴族同士の攻防が最も盛んな──武力を用いない平和な政争だ──光の国を知るだけに文句は言えなかった。
かつての引きこもりでさえ、その実状の片鱗を聞き及んでいる為か、目を伏せている。
「まぁ、その内仲直りできるさ」
「ライト」
「なんだ?」
目を潤ませ、懇願するような上目遣いで悲しみを訴えてくる少女に、善大王は猛りを覚えた。
バッ、と丈の長い法衣が風に流され、はためき、布が擦れるような音を立てる。彼は、フィアを抱きしめていた──騎士が王女や巫女にひれ伏すように、泣き崩れた大人が呆然としている子供に泣きつくように。
驚き、瞳孔を小さくした彼女も、すぐに安らかな表情になって抱擁に応じた。
「ライト、今日抱く予定の子を考えてたでしょ?」
耳元で囁かれ、黙ったままひきつった笑みを浮かべる善大王。それが見えない位置でも、察したように笑顔での威圧をするフィア。
こうして、一人の少女の貞操と、公開性交実践講義は中止となった。




