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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
444/1603

14

 ──洋上の何処(いずこ)かに浮かぶ定期船にて……。


「さて、フィアはどうしたほうがいいと思う?」

「この問題は重大ね……」


 水龍とイカ──もちろん魔物だが──を撃破した二人だが、当面は抱えるであろう問題の対処に奔走し、どうしたものかと頭を抱えているところだった。

 とりあえずは、と乗客を船内に押し込んではいるが、席数が三つ不足していたという状況。

 それ以外が無事に着席できているだけに、席分配にはなかなか考えるところが多い。


「よし、今日はあの子と寝よう」

「なんでよ! 私で──は、やだけど……でも、それは……うーん」


 二人が問題にしていたのは、席に関することではなかったようだ。

 船は動き出しており、乗客が船内(・・)に入っていることも事実。つまりは、問題が解決された後である。

 そんな時に甲板へ出て、話している内容が夜伽についてだというのだから、呆れずにはいられない。


「そ、そうだ! ライト、あの部屋にはいっぱいの子がいるんだから──」

「選び放題だな」

「違うよ! 気まずいじゃない……うん、教育によくない」

「学園を退学したお前がよく言う」

「ぐむ……」


 睨みあった末、二人は気を取り直すかのように咳払いをした。これが同時だったのだから、相性の良さは言うまでもない。


「ライト、たぶんこの船は長く持たないと思う」

「同感だ。十中八九、持って雷の国付近……どころか、下手したらその前で止まる」


 島を拝むことなく、船が停止することになれば非常に困った事態になる。具体的には、救援を呼ぶことができなくなるのだ。

 かの通信でさえ、ライカと定期船推進派の者、この二人以外は警戒されて受け取ってもらえないのだから。


「繋いでおいたほうがいい?」

「いや、それは後に回しておいてくれ。事情は知らないが、推進派との折り合いもある」

「えっ?」


 この疑問は当然のもので、相手から聞いていないのか、どういう折り合いなのかという意味を含めていた。

 そもそものところ、ライカと推進派は全くの別モノなのだ。王政側はこちらの入国、定期船の返還を受理したにすぎない。

 形としては、光の国側が善意としてこの危険な航海、大陸人の輸送を行っていることになっていた。

 善大王としてもその方が都合がよく、移動に要する経費もその富豪(・・)が負担しているだけに、呑まない理由のない取引だった。


 それを瞬間的に考え、フィアに汲み取らせるように促したからか、金髪少女は空色リボンを揺らしながら理解の意を示す。


「……でも、なんでその人は詳しい事情を話してくれないの?」

「必要がないから、だろうな。プランや条件提示などがしっかりしている辺り、黙っている諸所の事情は国の内情──勢力的な問題だろうな」


 他国どころか、身内でそんな駆け引きを行うのは愚としか言いようがないが、貴族同士の攻防が最も盛んな──武力を用いない平和な政争だ──光の国を知るだけに文句は言えなかった。

 かつての引きこもりでさえ、その実状の片鱗を聞き及んでいる為か、目を伏せている。


「まぁ、その内仲直りできるさ」

「ライト」

「なんだ?」


 目を潤ませ、懇願するような上目遣いで悲しみを訴えてくる少女に、善大王は猛りを覚えた。

 バッ、と丈の長い法衣が風に流され、はためき、布が擦れるような音を立てる。彼は、フィアを抱きしめていた──騎士が王女や巫女にひれ伏すように、泣き崩れた大人が呆然としている子供に泣きつくように。

 驚き、瞳孔を小さくした彼女も、すぐに安らかな表情になって抱擁に応じた。


「ライト、今日抱く予定の子を考えてたでしょ?」


 耳元で囁かれ、黙ったままひきつった笑みを浮かべる善大王。それが見えない位置でも、察したように笑顔での威圧をするフィア。

 こうして、一人の少女の貞操と、公開性交実践講義は中止となった。


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