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「ミネアの……姉?」
もう一度姿を改める。どうみても、あのおてんば娘の姉とは思えなかった。
「そうだな、義理の姉か?」
「いえ、血も繋がっていますよ。私の方は巫女ではありませんが」
「ほぉーそうか。それで、罪人の俺に何か用か? 卑屈なわけではないが、妹に手を出した男だぞ? それを目当てでというならば応えてやるが」
「いえ、遠慮しておきますよ。私はお話をしてみたかっただけで」
余っていた椅子を勧めると、俺はベッドに腰を掛ける。
「それで、何を話すんだ?」
「あなたのお名前を聞かせてもらいたいです」
「……善大王だ」
ヴェルギンにその名を出し、萎縮されることを恐れていたが、今更隠す必要はない。
「善大王さんは、なんでミネアちゃんに手を出したんですか?」
「それはまぁ、ミネアは可愛い子であるから、男としては当然だな。それに、あんな発情ムード見せられて手を出さない男はいない」
俺の言葉を聞いて、コアルは驚いたような表情を見せる。
「ミネアちゃんはまだ子供ですよ?」
「俺は幼い少女を好みとしている。君も例外ではない、どうだ? 軽く済ませてはいかないか?」
そう言いながらも、コアルという少女には強い感情を抱けなかった。雰囲気のせいか、少しは反省しているのか。
「この国に来てから、誰かに接触されことはありますか?」
今回は強かに無視された。一々気にしたりはしないが、少しばかり何とも言えない気持ちになった。
「そうだな、物売りの幼女とは出会った。さすがに手を出す気にはならなかったが」
そう言うと、何かに感付いたかのようにコアルは頷く。
「ミネアちゃんは変わった男に会った、と言っていました。その人は――善大王さんが何者かに利用されていると助言してくれたそうですよ」
「そんな怪しい男の言葉を信じたのか? 確かに条件は一致しているが」
「ミネアちゃんも今回の件は臭いとみているらしく、その人に関しても思うところがあったんじゃないでしょうか」
俺はベッドから立ち上がると、コアルに手を伸ばした。
「なるほど、じゃあ俺をさっさと出してくれ。問題は解決したんだろう?」
「いえ、ミネアちゃんを貶めようとしている人がいるということを問題視しているだけで、善大王さんの罪はたぶん別件だと思いますよ」
コアルの目を見た瞬間、俺は一つのことに気付いた。
この子は幼女に当たる年齢でこそあるが、子供ではない。気配や雰囲気が違う、というもあるが、明確に大人と子供を分かつ境界を越えている。
なるほど、通りで俺の読みが使えないわけだ。
「なら一人にしてくれ、俺はのんびり寝ているさ」
「上にはヴェルギンさんがいますので、脱走しようとしても無駄ですからね。大人しくしておいてくださいね」
微笑みながらそんなことを言ってくる。意外に性格が悪いのかもしれない。
牢から出ていくコアルの姿を見送った後、俺はベッドに倒れた。
直接対決でヴェルギンを突破することができるか。いや、おそらくはできない。
しかし、技巧を凝らせば……僅かな隙を狙えば行けるかもしれない。
そんなことを考え始めた時、妙な視線を感じた。魔力は感じない、姿もない、だが視線だけが確かに存在している。
奇妙な感覚に襲われながらも、俺は面倒になり、眠りに落ちた。