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あらかたの説明をし終え、ため息をついてからコップに注がれた──自分で注いだ──水を飲む。
この場で唯一、ヴェルギンの話を聞いているはずのスケープは眠りに落ちていた。
最初こそは起きていたが、水を何杯も注がせ、満足したらさっさと居眠りを始めたというのだから問題だ──まさしく、性格面の問題だ。
「では、一連の命令をまとめるぞ」
「ふぁ……ふぁい、聞きます」
酷い態度ながらも、筋肉隆々な老人は文句一つ言わず、続きを言う。もちろん、文句を言わないのは孫へ向ける愛情、それによる甘さなどではない。
「お前には盗賊ギルドの偵察を行ってもらう。こちらが確認している拠点は三つ、事件を起こす輩はすべてこの地点のどこからか出てきている」
凄まじい断定能力、と思うかも知れないが、これは盗賊達の装備などから判断できる。
そもそも、ギルドといっても盗賊ギルドは組織ではないのだ。協定条約ではなく、不可侵条約を結んでいると言うとわかりやすいかも知れない。
ただ、完全平和で争いのない関係でもなく、平等でもない。
それぞれの派閥、個人毎に持っている地位も違えば、規模も違うのだから当然だ。
大事を起こし、決まりを破り、大勢から嫌われるようなことになればギルドが動き出す。ただ、それ以外では各々が勝手に争い、勝手に解決しているという形だ。
その為、それぞれの派閥に属する盗賊達はタトゥーや装飾、格好などで個別化を行っている。自分の派閥を誇示し、力関係をわからせるように。
「ワタシはどこに行けばいいのかな」
「とりあえず、ここと、ここ。近い順から行え──連絡は拠点を確認し終えてから、その度に行え」
「その度って、一回ですよね?」
「……一個の拠点を探り、もう終わりだと判断したら連絡。そして次の場所で同じことをやって、最後に連絡。二回だ」
彼が火属性の使い手だったのならば、いま頃手前の水瓶は湯気をあげていたに違いない。
「なにを偵察するんですか?」
「それくらい自分で考えんか!」
「怒んないでくださいよ、それくらいぼくだってできます。でも、そんなの非効率じゃないですか? 間違ってたら二度手間ですよ」
「なら考えてみろ、答え合わせはしてやる」
「それももったいなくないですか? 師匠は分かってるみたいですし、それ聞いてすぐに動いた方がいいと思います。ぼくも失敗せずに済みますし」
怒っても仕方ないと思いながらも、ヴェルギンの苛立ちは相当にきていた。
おそらく、この喋り口調や考え方も、何かをコピーしているだけにすぎない。それを叱ったところで、彼女の心にはなにも届かないのだから。
「お前が思うものを探ってこい。なにも調べない、行かないは許されない。これだけは覚えておけ」
「……じゃあ、さっさと調べてきますね」
どうにも、先ほどからスケープは怒って──いや、拗ねているてようだ。
それまでこの方法でうまく行き、それなりに結果を出してきたからこそ、それを突っぱねるような態度が気に食わなかったのだろう。
広義の意味で言えば、この不満は演技などではなかった。




