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──火の国、フレイア城……。
「盗賊ギルドの動きが活発になったじゃと?」
「全く困ったものだ。おとなしくなったと思いきや、この有様では」ヴォーダンは目をしぼめ、髭を撫でる。
「対策は考えておるのかの? ワシは国を離れられんが」
火の国臨時軍のトップだけはあり、好き勝手に歩き回るような真似はできない。小間使いに使えるような者は──ヴェルギン本人が追い出した。
「あのガムラオルスだとかいう若造がいれば、適当に任せておけたんだが……まったく、ヴェルギンは頑固すぎる」
「オヌシはドライすぎるんじゃよ。ワシは自分の弟子を、使い捨ての武器などにするつもりはないのでのぉ」
目を目を見て、相手の気配をさぐり合う。
長年生きてきた者だけはあり、両者ともボロは出さない。顔に皺を浮かべないヴェルギンも、毛繕いのように髭をなぞるヴォーダンも、堅牢さ以外を覗き知ることはできない。
「あの娘はどうだ? いつだか報告しただろう?」
そこまで昔のことではないにもかかわらず、まるで平和な時代に聞いた話であるかのように、日常的な雑談を思わせる口調で言った。
「能力については問題なしじゃが、性格面に問題がある。安易に使うのは勧められない」
真面目な表情になり、弟子の運用に否定的な意見を述べた。そう、意見だ。
彼は顧問でしかないが故、助言や意見を述べることしかできない。ガムラオルスがいた場合には、それを強制的に動員させられようとも、阻止することはできないのだ。
「構わん、融和を是としていないのだから、性格など二の次だ」
ヴォーダンがこうした人間だということは、彼とて理解している。
冷たいわけでも、ましてはドライなわけでもない。この王は、まさしく武の王であり、同時に泥臭い道を歩んできた豪傑なのだ。
自分ができるならば他者もできる。もちろん、その者は強者として認めた者であり、女子供──ただの一般人をそれに当てはめることはないのだ。
失望というよりかは、このことを言い出す罪悪感のようなものが足枷となり、自然と牛歩になっていた。
罪悪感、と断定しなかったことにも理由はある。根本的に、彼はそれを覚えるような男ではないのだ。
王の命令とあらば、それには応じなければならない。過干渉を避けることに決めたのも、彼本人なのだから。
ただ、ヴェルギンはまだスケープという女性の正体を理解してはいない。
見え透いた内面はともかくとし、彼女が何の目的で、何の為に、誰の命令で動いているかは断定できていないのだ。
夕刻にまで引き延ばそうとしながらも、日々歩き慣れた調子を変えるのは易くなく、昼には自宅に到着する。
無言で──自分の家なので問題はないが──戸を開け、足を踏みれると、幼さの残滓を覗かせる横顔が目に入った。
「戻ったんじゃが?」
「……」
「家主が帰ってきたんじゃから、返事くらいせんか」
は虫類が瞬きをするような生々しさで瞼が動き、女性の瞳は生ぬるい外気に接触する。
「師匠が先に言わないなんて、珍しいことがあったから……いつもは軽い感じで言うのに」
「そういう時もある……気付けば挨拶、これもまた戦いじゃ。先手、先手にしていける人間は好かれる」
「でも師匠はそういう浮ついた話がないね。好かれてないんじゃない?」
「ジジイに恋するおなごなど、そうそうおるものではない。それに、ワシは枯れておるからのお」「あはは、その筋肉でちんちんはフニャフニャなの? おもしろーい!」
からかうような調子で出てきた言葉だが、肝心の師匠が気にしているのは、弟子の無礼さではない。返答の内容だ。
「言うたワシがこうして指摘するのもなんじゃが、おなごがこうした話題で喜ぶのはどうなんじゃ」
「おもしろいからよくない? ワタシは結構好きだよ、こういうエッチな話題」
これこそがヴェルギンの見つけた、彼女の一面。
平均を上回り、女性らしい8の字の豊かな体型。淫靡な雰囲気などを必要とせず、純粋な無防備さで男性の欲求を駆り立てそうな、性的な性格。
確かに符号はするものの、高い実力を持つ《選ばれし三柱》が、少し前までは成人にすらなっていなかった女性が、このような具合というのは珍しい。
「……まぁよい、本題に入るとするぞ」




