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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
422/1603

3s

 この状況で結果は言う必要性はないだろう。一対一の勝負ともなれば、ウルスの敗北する可能性がなくなったも同然。

 ただ一撃、炎の円陣が相手を囲んだ時点で勝敗が付き、全員が無傷──女性冒険者は骨折を起こしていたが──で手打ちとなる。


「《紅蓮の切断者》、この行動の意味が分かっているのか?」

「もちろん」

「冒険者ギルドを敵に回して、ただで済むと思うな」

「フッ……こんな状態じゃあ、冒険者ギルドの威光なんてあってないようなものだ。井戸のカエルに付き合うほど暇じゃない」


 睨みつけてくる白髭から視線を外し、ウルスは呟く。「その娘、早く治療しなければ……後遺症が残るぞ」


 このスワンプにおいて、骨折を治療する手段は存在していない。他所の村に行かない限りは、死の症状なのだ。

 忌々しげに痰を吐き、案内人の背を蹴りつけると、冒険者の一同は村を出て行った。

 そうして少し経った頃、何気ない仕草で声がこぼれる。


「お前、どうして手を出した」

「フェアじゃないと思ったからです」

「よく言う」


 あの状況、間違いなくウルスは勝利していた。ただ、その場合には死人が出ていたことは言うまでもない。

 クオークはそれを予期し、この場で人死にが出ないように手を尽くした。ただそれだけのことだった。

 沈黙の中、一つの音が──生物の声でもなく、自然のせせらぎでもない──二人の耳に届く。


『彼らがこの場を訪れた意味、ご理解いただけましたか?』


 互いの表情を窺い、内容が同様のものであることを確認した。


「本部から権力を渡されてるってことか。でもなきゃ、あの人数は呼べない」

『その通り。戒厳令を解く力すらも持ち合わせています』


 冒険者を無尽蔵に送り込める、という意図で察する若人に溜息をつきながら、《紅蓮の切断者》は一個人の立場を捨てた。


「それで、なにが目的だ。それを言ってもらわなければ、手も打てない」


 頑なに拒絶し続けてきた男が膝を屈した。

 そうした生き様を一場面しか知らないクオークとて、彼からの言葉を直接聞いていた為に驚きは知る者と同じだ。


『《紅蓮の切断者》、クオークの両名はコーラルに向かってもらいます。そこに、あなた方と同じくギルドの意向に背いた者がいます』

「なにをしでかしたんだ、そいつは」

『そいつ()ですね。任務を放棄し、逃亡を行っています。コーラル以外に逃れている可能性もあるので、発見し次第……』


 見えないと分かりながらも頷き、ウルスは答える。


「応じた場合、俺達に関わらないことを誓え」

『ええ、こちらからとやかく言うことはやめにしましょう。応じていただけますか?』


 吐き捨てるように「分かった」とだけ言い、通信を切断する。

 答えられずにいるクオークは通信を繋いだままだが、この状態では問いすら投げられないと思い「分かりました」と承諾の意を示した。

 再び訪れた静寂の中で、第一声を切ったのは──ウルスだった。


「五人の命を拾ったバチだ」

「……ぼくの為ですか?」

「ああ」

「どうして」

「俺もまた、殺さずに済んだ」


 男は嬉々として──無感情に人を殺せる人間ではなかった。

 クオークはそれに初めから気づいており、薄々と感じ、そうさせないように動いていたのだと自覚する。

 納得する青年を余所に、さっさと進み、彼との距離を開いていく。


「(婆さんが解放されたのも、おそらくこいつを利用する為……連中は俺を手中に納める為なら、どんな手でも取ることを示してきた)」


 その最終地点に、燃えさかるスワンプの村を幻視し、彼はこの選択を取った。

 身近にいる若造を守り、自身の村を火の海に変えられないように。

 そして──サイガーという男のハラワタを探る為に。


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