2s
村から離れ、代表とも言える二人が頷きあった時点で戦闘が開始される。
切り込みを任されたのは白髭。近接戦闘を得意とする冒険者であり、この即席パーティーで最も高い実力を持つ使い手だ。
手斧がウルスの首を狙うが、炎剣によって弾き飛ばされる。
そのまま、ウルスは体重を乗せた蹴りを赤い軌道とは全くの別方向から放った。
それに対し、手を放れた斧には目もくれず、腹部のさらしに隠したナイフを構えて後置きのトラップとする。
このままであれば足を貫通させられ、行動を大きく制限されるが、《紅蓮の切断者》と呼ばれる使い手がそこで止まるはずもなかった。
暗い飛沫を纏った足は、周囲や浸した液体とは対照的な、明るく色鮮やかさを得る。
光を受けて輝く鏡面色を叩き割り、罠を正面から砕き潰すことで攻撃を続行させた。
途端、左右からの気配を察知し、蹴飛ばしを踵落としに切り替えることで自身を空中に逃す。
泥の丸粒が白髭の無地コットンに飾り付けを行い、左右の剣士と短槍使いの目を潰した。
「もらった!」
低音にしながらも、女性らしさが残った声が刃の先導をする。
それに反応し、両踵から炎を噴射し、宙返りをしながら声の主と後続の剣を睥睨した。
「そういうのを言うもんじゃねぇよ。女としても、戦士としても」
ムーンサルトによる反撃が放たれる寸前にもかかわらず、女の顔には笑みが消えていない。
突きのモーションを崩さず、剣の持ち方を切り替えた。掌から白銀のツクシが伸びているような形だ。
手首のスナップだけ発射された剣は、遠距離攻撃の手段には成り得ない──真後ろという、半密着状態の相手を除いて。
「(手段を選ばない極限戦闘術……ここまでやれるとはな。白髭も、なかなか良い弟子を持ったじゃねえか)」
武器を選ばず、正規の運用に縛られない超変則の戦闘様式。
《火事場の白煙》と呼ばれることになったのは、こうした危機的な状況での返しが幾度も使われたからだ。
反撃を行おうと集中力を高め始めた瞬間、幾千、幾万の攻撃を写し続けた瞳はそれを捉えた。橙色の光線が剣を弾き飛ばす様を。
鋭い術、迷いのない気丈な顔つき、決意を秘めたる眼。
「お前が手を貸すとはな」
「……自分も驚いていますよ」
この状況にも判断を違えず、白髭は腰のホルダーに納めた特製の矢──掌ほどの長さで、先端は針のように鋭いもの──を取り出し、投剣術の要領で投げつけた。
なにも言わずに攻撃を行ってくるとは思わなかったらしく、クオークは焦り出すが、炎の刃が矢を焼き払う。
「十分だ」
女は重たい蹴りを──当初の予定通りに──叩き込まれ、地面に打ち付けられている。残りの二人は戦線に復帰しているが、目の状態は依然として悪い。
この場では論外な実力の案内人は腰を抜かし、戦闘を行えるような状況ではなかった。
「さ、白髭……いや、《火事場の白煙》。ここは綺麗に一騎打ちといこうじゃねえか」
「こちらにはまだ四人いる」
「そのヘナチョコを一人に数えるか? こっちの一人を、ただの一人だとは思ってないだろ?」
怪訝そうな顔をした後、あえて天属性の使い手には触れないまま、標的の提示した条件を呑む。言葉は必要とされず、いきりたつ二人を制した時点で、それが確定された。




