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「この男が、ミネアを襲ったのか?」
「そうじゃな、とりあえず一発殴っておいたが」
目の前には癖っ毛の強い赤毛の男がいた。褐色の肌はヴェルギンと同じだが、壮年よりも少し上くらいの年齢のようだ。
フレイア王、かなりの実力者であり、武具職人としても優秀だとか。冒険者時代は一度も会っていないが、こんな顔をしていたんだな。
「なぜ娘を襲った。お主は何者だ」
「俺はかつて、この国で竜を倒した者。その生き残りと言えば通じるか?」
「ほぉ……あの時の若造か。武勲としても十分、ミネアの婿に取るのも悪くはないな」
悪印象ではないらしい。結婚というのは良くないが、このまま無事に釈放されればいいが。
「それで、何を所望する」
「俺は欲深くない、恩赦だけで十分だ」
「何を勘違いしておる。死ぬ前に何が欲しいのか、と聞いておる」
どいつもこいつも、幼女とすこしやろうとしただけでこの怒りようだ。せめて何かやったなら分かるが、毎回毎回未遂でここまで騒がれるとたまったものではない。
「殺すのは過剰すぎないか?」
「こちらとしてはかつての英雄に最大級の譲歩をしているつもりだが。《かね》、《さけ》、《めいよ》それらを与えようとするだけ、有り難いと思って欲しいのだが」
幸い、今は《暴食の鎖》などはない。強行突破で越えることはできそうだ。
《魔導式》を俺の真下に展開する。
位置からして、視覚での判断は不可能。規模もかなり落しているので、魔力察知も困難。
詠唱を破棄し、光弾を後方のヴェルギンに向って放った。この一瞬の隙で逃げられる。
しかし、結果は俺の思ったものと違っていた。
ヴェルギンの腕に巻かれていた包帯が取れ、丸みを帯びた鉄板を何枚も重ね、蛇腹のような形になっている銀色の手甲が姿を現す。
その手甲が俺の術に接触した瞬間、光弾は勢いを失い、完全に静止した後に崩壊した。
これと似た現象、俺は見たことがある。
「無駄な抵抗をするもんではないぞ。ワシを本気にせんようにな」
さすがは竜殺し、簡単には突破させてくれないらしい。
「ああ、分かった。牢獄なり好きにするがいい」
「潔い男だ。ヴェルギン、連れていけ」
俺の入れられた牢獄はわりかし豪華だった。とはいっても、即席で作られたような、家具だけを押しこんだ牢屋という印象。
「数日後に処刑する」
「特別罪人制度とかはないのか?」
「あったとすれば、ワシがその対象になるが」
「なるほど、勝てそうにないな」
ヴェルギンはそう言い残すと、去っていった。
しかし、どうしたものか。術は使えるのだから、ばれないように地面を掘っていくのもいいかもしれない。
早速《魔導式》を展開しようとした時、足音が聞こえて来たので咄嗟に解除する。
降りてきたのは紅色の髪をしたお淑やかな幼女だった。
三つ網を頭の後ろで一つに結び、リボンで整えているという髪型。それだけでお嬢様、という雰囲気を感じさせられる。色々とミネアとは対照的だ。
それにしても、このクソ暑い火の国で長袖というのも珍しいな。俺ですら半袖の服を借りているというのに。
「こんにちは。少しだけ、御時間よろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ」
牢の外から話しかけられるのかと思っていたが、その幼女は鍵を開け、牢屋の中に入ってきた。
幼女に関しては予知じみた技ができる俺ですら、その行動は読み切れず、唖然と見逃してしまった。
「始めまして。私はミネアの姉、コアルです」