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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
418/1603

1e

 ──水の国、フォルティス城にて……。


「それは本当ですか?」

『うん。私とライトがそっちの大陸に向かうから、これできっとどうにかなると思うの』


 フィアからの連絡を受け、青い髪の少女は憂鬱そうに窓の外を見た。


「こちらの状況は、とても酷いものですよ」

『……聞いてる。魔物の処理が追いついてないとか、国家間でゴタついているとか、領地の関係で手間が増えてるとか』


 常に国の上層部と接触し続けただけはあり、フィアもシアンと同じ立場──いや、近い立場になっていたのだ。

 能力による情報ではなく、口から伝え聞いた、彼女の脳に直接書き込まれた記録。《水の星》と同じく、自身のものとして使える知識だ。


「水の国は貴族が多く、善大王さんのような絶対権力もないので」

『そこでライトの出番よ! ううん、ライトと私の出番っ!』


 感情論とノロケ話にも聞こえるが、この二人ならば貴族や領地の都合を無視して行動できる。魔物の駆逐という意味では、最も適した人材なのだ。


「……申し訳ありません、こちらの尻拭いをさせるようなことになって」

『困った時はお互い様……そういえば、シアンはどうなの?』


 予期せぬ問いが現れ、シアンは固まった。

 頭の回転スピードが速く、瞬時に予知の如く推理を行える彼女でさえ、今の質問は完全な死角であった。


「なんのことでしょうか」

『なんのことって……そりゃまぁ──』

「カイトは相変わらずです。今は首都の守りについてもらっていますが、行く行くは主力部隊への配属が決まることでしょう」

『そうなんだ。まぁ、紹介した私からすると、その活躍を喜ぶべきだろうけど』

「いえ、フィアちゃんにそれを求めたりはしませんよ」

『えへへ。まっ、そういうこと! ……ん? それって私が他の人と共感できていないってこと?』


 無事に話題を逸らせたと確信し、シアンはいつもの日常を取り戻した。こうなってしまえば、彼女に隙はない。


「今は善大王さんだけのことを考えていたいのでは、と思っただけですよ」

『……うん、それもあるかも』


 幾度も頭を巡るのは、迫りに迫った寿命などではない。両者とも、想い人──シアンは少し違うが──のことだけを考え、悩んでいるのだ。


「それはそうと、みんなも頑張っているみたいですよ。ライカちゃんは闇の国から恐れられ、ティアちゃんは素晴らしき冒険者として、希望の旗となっています」

『へぇ、ライカとティアがねぇ──ライカと……ティア?』


 首を傾げている姿が容易に想起できてしまうような、歯切れの悪い言葉が耳に届いた途端、引いた潮が再び押し寄せた。川や湖しかないこの国では、ありえない出来事だった。

 幾度も、幾度も、意識の不調を取り除き、不安や焦りによる感情の触れ幅を均一化していく。そうしてようやく、シアンは最低限度の状態に立て直した。


「はい、ティアちゃんですよ」

『待って? 今どこにいるの?』

「ティアちゃんは……えっと、北部ですか?」

『山脈じゃ……ないの?』


 ここで意味を理解し、頭を抱えながら窓の外を見る。遠く遠い《風の大山脈》も、こうして雲に覆われてしまえば視認さえ困難だ。


「ティアちゃんは冒険者として活動を続けています」

『あの子……見つけたらタダじゃおかないから……!』


 想像した以上に怒りは激しいらしく、壁を蹴りつけるような鈍い音が届き、少々の恐怖を覚えさせらていた。

 とはいえ、それはかつてとは違う恐れであり、普通の友達同士の喧嘩が嫌であるという思いでしかなかった。


『じゃ、切るから』

「えっと、ちょっと待ってくれますか?」

『ん? なに?』


 大きく息を吸い込むと、静かな声で一言一言、覚悟を決めていく過程を踏みながら言葉を発する。


「ティアちゃんも、好きでしているわけではないと思います。人助け()ということではなくて、フィアちゃんの──友達の頼みを破ることが……」

『でも、なら少しくらい言ってくれてもいいじゃない。私、今までずっとティアは山にいると思っていたから……じゃあ、とりあえず最初は山の方に行ってくるね」

「大丈夫ですよ。今は《風の太陽》があの山にいるとのことですし」

『ティアの恋人さんかぁ……うん、そうだね』


 発破を掛けるいい機会だ、と考えたらしく、それ以上は何も言わなかった。もちろん、フィアがそんなことを考えているのは、シアンも理解している。


「では、切りますね」

『うん。じゃあね』


 通信が切断され、シアンは黙ったまま壁を見つめていた。

 扉が開かれ、誰かが入ってきても気付かないほど、集中していたのだ。


「(フィアちゃんを戦力に数えられるなら……お父様の無謀には手を打てますかね)」

「ねぇ、シアン。おーい!」

「…………えっ? あっ、はい!」


 声を掛けてきた男を見て、彼女の身から放たれる気は少女のそれに戻る。


「今日の分は片付けてきたよ」

「はい、ありがとうございます」


 何の疑いもなく自分を見つめてくる相手を前に、彼女は迷いを抱いた。

 後々に暴走を始めるであろう父を止めるべきか、それとも暴走を利用して魔物に対抗すべきかどうかを。


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