5t
──ラグーン城、ライカの私室にて……。
「ライカ、多少は手加減してくれませんか」
「結果を出しているんだから、いーじゃん、べつに」
へそを曲げている娘の姿を見ながらも、ラグーン王は頭を抱えてみせた。
「私としては、ライカには良い子になってほしいものですよ。あの子のように」
「……昔の巫女は、本当にあれを使えたっての? アタシだってよく分かんねーことなのに、どうやって突き止めたのさ」
「それは──私にも分かりかねますね。少なくとも、あの子はよく人を見ていましたよ。暴力的な力を持っていても、気を遣っていましたよ」
比較されるのは誰であっても心地よいものではないだろう。常々跳ねている毛は、いつも以上に逆立っているように見えた。
「ノロケ話なんて聞きたくないし……それに、娘の前で言うことでもないし」
「そうですね」
視線を逸らしながらも、父親は窘めるように言う。「血ではなく、その役割について言ったつもりですが」
「前の女の話を止めてほしい、っていう乙女の気持ちが分からないの?」
憤りを隠せない娘の態度を前にして、王としての威厳が発揮されることはなかった。父としてのものも同じく。
面倒な相手が部屋を出て行く様を尻目に、机に隠した菓子を食そうと歩み出そうとした。
途端、ライカは揺らめく赤色を観る。
「……アカリさんですか。珍しいですね、あなたから繋げてくるとは」
『ナットの村に妙な連中がいる』
厚い面でも付けているようなラグーン王の顔に、明確な変化が見て取れた。
「どういった状況でしょうか」
『説明する必要はないね』
聞こえていないにもかかわらず、紫色の瞳は送られて来る情報を捉えている。父親の表情もまた、それを補強する要因となっていた。
『依頼をしな。そうすれば、あたしはあの村の情報を収集して、巣食っている連中を叩きのめす』
「……不思議なことを言いますね」
まったくもってその通りだった。
依頼をしろと言う割りに、アカリは自ら行う仕事を宣言している。こうなると、事後承諾という風にもきこえてしまう。
『偵察能力には自信があるつもりだけどねぇ』
「問題を解決するまで──最後まで行えるというのであれば、呑みましょう」
『物分りがいいねぇ。じゃあ、ここいらで切らしてもらうとするよ』
「連中とやらを、一人だけ生け捕りにしてください。可能であれば、村の住民が怪我を負わないような手を」
『ハッ、物品すら壊す予定はないよ。あたしをなめてくれないことさ』
全てが彼女とは符合しない、違和感に満ちた発言の連続。
「では、報酬などは追って連絡します」
通信を切断し、彼は振り返った。分かっているとばかりに、ライカも頷く。
「間違いなく、あのアカリだし」
「そう、ですか……」
彼は顔に皺を寄せながら、延期していた行事を執り行うように少女の聖域から立ち去った。
一人になった後、机の前までには行ったが、抽斗に手を掛けるだけで留める。そして、菓子を食べるという予定を取り消し、彼女は虚空を眺めた。
満ちるのは、ピリピリと肌を擽る心地よさだけ。赤はもう、そこにはいなかった。




