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「あんまり気持ちのいい戦いじゃないな」
「ミネアを倒すとは、さすがじゃなぁ。ただ、あの一撃――ミネアでなければ死んでいたぞ」
「どうせ巫女様は耐久性が高いんだろ? あの程度じゃ死なねーよ」
倒れているミネアを見るが、外傷こそあれど無事らしい。本来はこんなことをしたくないが、大人気なく逆ギレしていた節がある。
俺はミネアに近づくと、《魔導式》を展開した。
「《光ノ九十九番・蘇輝》」
腹に開かれた風穴は高速で塞がっていき、内臓含めて完治する。
「あんた、結構やるじゃない」
「傷が治った直後に起きるなんて、意外にタフなんだな」
「治療なんてされなくても 治っていたわよ。でも、感謝はするわ」
俺の術は五割程度で発動されていた。ヴェルギンの言った通り、普通の人間を絶命させるには十分な威力だ。
ティア戦では幼女を考慮して一割程度に留めていたが、それでもしばらくは動けなくなる威力のはずだった。
二つの事例を重ね合わせると、巫女がどれほど異常かが分かる。
「それにしても、本気を出さずにあたしを倒すなんてやるじゃない。見直したわ」
「本気……ああ、そうか」
確かに最後の術は威力を落したが、それでも勝負には大きな影響を現さないはず。何か別のことを言っているのか?
ミネアの思考を読もうとした時、ヴェルギンは手を叩いた。
「よし、じゃあ修行をつけてやろう。ミネア、お前も手伝うんじゃ」
「何の修行ですか?」
「魔物を倒す修行、じゃな」
そう言った瞬間、ミネアは顔を顰めた。
「そんなこと、できるはずがありません。いえ、むしろこいつなら出来てもおかしくないはずです」
「負けたらしいぞ。だが、安心するがいい……ワシとして倒し方なんて無理をさせる気などない、ただ身を守る方法を教えるだけじゃ」
ミネアは納得すると、構えを取った。
「なら、さっさと始めるわよ。師匠の顔を立てているけど、あんたに時間を割きたくないから」
「おう、俺だってそのつもりだ」
今にも修行を始めようとする俺達を見てか、ヴェルギンは笑った。
「最近は変な奴が多いのぉ。つい最近までカイトとかいう若造がいてな」
「あんたは人の世話を焼くのが好きなのか?」
「ま、半分は正解じゃな。こう見えても弟子は多く持っておる」
そんなに意外、というわけでもないが。
「とりあえず、魔物の単純質量に負けんようにならんとな。ミネア、高火力術については任せるぞ」
「はい、師匠」
ヴェルギンの修行内容を纏めるとこうだ。
魔物は基本的に撃破不可能。
瞳に刻まれた《魔導式》を起動し、術を発動する――なお、この方法は俺が魔物戦で使った技術と同様、よって使用後は戦闘力が低下しているということ。
魔物の動きを制しながら、火力ではなく手数で封じる。
それらを総合し、俺本来の下級術で戦うやり方を少し改造する、という手が取られた。
規模からして中級から上級術で戦闘を展開し、ひたすらに前進を封じる。ただそれだけ。
「《火ノ百十番・炎連弾》」
飛んでくる無数の炎弾を回避していき、最後の三発はこちらも防御姿勢に移る。
「《光ノ百十番・高破光》」
かなりの距離まで迫ってくるが、充填時間は十分。
命中寸前で光線が発射され、炎を消し去る。威力自体は火属性が上だが、連続攻撃だけに単発の威力はこちらに劣ってくる。
「次! 《火ノ百二十七番・超炎射》」
ミネアの手のひらより直進性の強い炎の柱が洟垂れ、俺は同時に展開していた下級術の《魔導式》を解体し、上級術にまで高める。
「《光ノ百一番・龍浄剣》」
本来は対龍属性の術だが、単純火力で言えば十分上級術のラインに到達している。
精製された巨大な光の剣を構えると、槍投げのように放ち、火を引き裂いていく。
途中で完全に溶かされたが、相手の攻撃は拡散し、俺の場所には届かない。
このように、ミネアが発動する百番台の術を相手に逃げ回り、防いでいく。そんなことを一週間程続けた。