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大空のフィア  作者: マッチポンプ
前編 七人の巫女と光の皇
4/1603

3

 謁見の間に入った俺は、早速国王であるビフレスト王と会うことになった。

 豪奢な服を身に纏った、白髪白髭の老人。それだけを言えば、よく思い浮かべるであろう王様を考えさせるが、さすがは天の国の王――それだけでは終わらない。

 眼光は鋭く、入ってきたばかりの俺を威嚇するように、睨みを利かせてきていた。

 玉座の裏は全面が硝子になっており、城下町を背負っているようにも見える。


「始めまして。善大王です」

「見れば分かる……しかし、今回の善大王はいつもと違うらしい」

「と、言いますと?」

「なに、深い意味はない。君はただ、いつもの善大王とは違う、そう思っておけばいい」


 こう言って来ている以上、それが好意的な物とは思えない。つまりは、良くない善大王が来たものだ、と遠回しに言っているのだろう。

 こんな短い会話で判断できるものか、と一刀両断するのは簡単だが、相手は天下のビフレスト王。衰えながらもミスティルフォードで最も優れた軍師とされる男だ。


「この国をどう思う?」

「……良い国だと思いますよ。来るまでに見てきましたが、民は活気を持っていました」


 背にある硝子から外を覗きこむと、ビフレスト王は告げた。


「民はな。だが……娘はそうではない」

「娘……さんですか」


 まさか、ここで身内の話をしてくるとは思っていなかった。さて、どういう反応をすべきか。


「娘は――フィアは世界を退屈なものだと思っている。できることならば、あの子には笑っていてほしいものだが」


 どうやら、廊下で会ったフィアはビフレスト王の娘だったらしい。過剰なスキンシップを避けておいたのは正解だった。


「ならば、世界が楽しさに満ちていることを、教えてあげればいいのではないですか? 外の世界で暮らすことで」


フィアが城の中に幽閉されていることは、なんとなく察しがついていた。だとすれば、その状況から解放すれば、解決に向かう可能性がある。


「ならぬ! あの子を危険に巻きこむわけにはいかん」

「過去に何かあったんですか?」


 俺の方を見たビフレスト王は、一歩近づいてきた。


「あの子は我が国の敵対者に狙われている。拉致されたことすらあるのだ――そんな状況で、自由にさせるのは危険だと思わないかね」

「それは……」

「いや、脇道に逸れたな。本題に戻ろう……今回呼んだのは他でもない、光の国と提携して解決していきたい問題についてだ」


 話が変わったというのに、俺の頭の中にはフィアのことが残っていた。


「闇の国で過剰に巨大化しているマナクリスタルの調査、《風の大山脈》に住まう原住民族、《風の一族》の対処について」

「闇の国の問題についてはこちらから聖堂騎士を出します」

「あちらには諜報部隊が存在すると聞くが、問題はないのか?」

「はい、こちらの聖堂騎士も諜報活動、戦闘において不足しない実力を持っています。心配はございません」


 かつて俺がそうであったように、聖堂騎士は優秀な人間が多い。さらに言えば、俺が知っている者も多くいる――信頼は十分だ。


「では、その方向で進めてくれ。《風の大山脈》についてだが……」

「そちらは俺が直接向います」

「善大王殿が……うむ、それは面白いかもしれない」

「領地となってからは我が国から一時統治者を置き、その後、両国から代表者を選ぶ……という形でどうでしょう」

「うむ、問題はない。任せよう」


 事前に予習していたわけではないが、話をしてみると存外すっぱり言葉が出てきた。

 冒険者時代にこうした交渉は少なからずしていたが、そのおかげだろうか。


「ビフレスト王、一つだけ提案があるのですが」

「何かね」

「……今日一日、俺にフィアの護衛を任せてくれませんか?」


 その意図はすぐ伝わったらしく、ビフレスト王は唸った。


「妙に固執しているな。あの子に会ったのか?」

「はい。善大王として、一人でも多くの人を救いたいのです」


 思ってもいないことだったが、フィアを救ってやりたいというところに嘘はない。


「……分かった。城の者には通しておく」


 俺は一礼をして謁見の間を抜けると、再び廊下に向った。


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