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──雷の国、北西部の街、ニカド。
「くそっ! 通信が……」
通信術式を開いている男を発見し、藍色の軍服に身を包んだ男達は一斉に接近して行く。
心臓に一撃、剣が突き刺され、男は絶命した。
「ち、またお前かよ」
「ケケ、卑怯も実力のウチさ」
ネズミ顔の男は狡猾そうな声で笑い、背後に待機する主へと視線を送る。
「皆ご苦労だった。クリック、お前には再度褒賞を渡そう」
「ハハーっ! ありがたき幸せ」
軍服を着た者達は六人、彼らの指揮官は……ディードだった。
人身掌握は得意らしく、褒賞を用いた完全成果制度にしている。もちろん、手柄が多ければ報酬も増えるが、少なくとも減らされることはないのだ。
飽くまでもゲームのように、運が良ければトドメを狙うという程度のスタンス。この遊戯感覚を与えることもまた、殺人に対する抵抗感を弱めていた。
「コード、そいつの身分は?」
コードと呼ばれたのは、牛のように間抜けな顔をした男だ。クリックに文句を言った者といえば分かりやすいだろう。
指示を受け、鈍間な反応を示した後、通信中だった者の体を物色した。
「……私兵かと」
「なるほど、なら連中の陽動は成功した、ということか」
ほとんどの者達が理解していないが、クリックだけは狡賢い笑いを浮かべながら、挙手する。
「ケケ、雷の国はこちらの動きに気付いていないと、そう言うことですよねぇ。気付いていれば、こちらに兵を寄こしておくはずでさぁ」
「そうだ。魔物などという、得体の知れぬモノに頼るのは癪に障るが、結果として部隊は上陸に成功した」
先遣部隊、その名を聞く限りでは最も早く上陸してきた者達を思い浮かべるが、彼らは第一陣で最も遅く到着している──いや、正しくは囮の前か。
なまじ最後ではないからこそ、その存在は警戒されていない。大軍が上陸する最中に一部隊が別の場所に向かおうとも、気を向けている場合ではないのと同じく。
さらにいえば、幻術で隠蔽されていたのだから、発見は不可能といっても過言ではなかった。
閑話休題、彼らの役目は奇襲や先制攻撃ではなく、後続部隊の為の地均しだ。
だからこそ、ここに来るまでに村を五つ、町を二つ攻略している。村には一個小隊、町となると中隊から大隊規模が管理を行っていた。
戦力だけが消され、農民や女子供は生存を許された状態での管理。なまじ変化が少ないからこそ、国もすぐには異変に気付かないだろう。兵を回していないならばなおのこと。
「ディード様、我らは首都の攻撃には参加しないのですか?」
真面目そうな蛇顔の男は愛国心から、そのような問いを投げかける。
「部隊の役目は拠点拡張だ。いくら魔物がいるとしても、この序盤では奴らも戦力を持て余していることだろう」
「ですが……」
「わたしとしても、同胞が殺されていくことは許せない。だが、彼らの死は無駄ではない──闇の国が勝利する為には、それだけの無理が必要になる」
口だけと思い気や、ディードの表情変化は紛れもない本物だった。だからこそ、部下の心を動かす。
「ケール、いや……お前達も、わたしはこの部隊の人間を誰一人として死なせたくはない」
「ディード様」
部下達は彼に心酔していた。現実的な利益を用いた支配、そして感情論での忠誠心、それらが相成って部隊に犠牲者は出ていない。
やり方こそ違えど、先遣部隊は宗教兵団に近いものとなっていた。




