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──ラグーン城、会議室。
「──ということでして、定期船の運航は再開すべきかと」
良い歳の取り方をしたという印象を覚える、活発な中年はそう言う。
髪の色が青灰色なので、この国の生まれではないことは確かだが、身なりの良さから他国での貴族に相当する地位にあることが分かる。
「闇の国を経由する危険性がある以上、早計かと」壮年の男は言う。
「光の国との文化交流……あの行事の決定は、明らかに既存航路を考慮すれば不可能だったはず」と青灰色の男。
「あの件については、こちらから海路の情報を開示しました。おそらく、最短コースを発見したのかと」
ラグーン王は控えめな態度を維持し、前のめりになり過ぎない程度に意見を出す。
「善大王様から移動に使った航路を聞き出すのは?」
「……考慮してみましょう」
少し離れた位置から様子を見ていたアカリは、会話の内容には気を向けず、時間が過ぎるのを待っていた。
長ったらしい会議も終わり、ようやく集まっていた者達が解散していく中、彼女とラグーン王の目が合う。
「ご苦労様です」
「依頼主からの命令さ、じゃなきゃさっさと帰っているところだよ」
会話を手短に、ラグーン王は会釈一つ残し、その場から立ち去った。
そして、最後に部屋から出てきたのは、定期船の運航に意見していた男。つまりは、このものがアカリの依頼主である。
「お待たせしました」
「それで、国よりもうまい報酬ってのはなんだい? 本当は、こういう思わせぶりな仕事は受けないポリシーなんだけどねぇ」
この男は事前にアカリに話しを通してはいたが、具体的な仕事の指示はしていないようだ。さらにいえば、値段提示も。
「娘の遊び相手になってもらえないだろうか」
「はっ、いくらで?」
つかまされたと思い、御破算になっても構わないとばかりに嘲笑する。
「金貨千枚」
「……詳しい話を聞かせてもらいたいところだねぇ」
うまい仕事にありついたからではない、今の彼女が態度を変えたのはその仕事がまずい仕事──いや、危険な仕事だと察したからだ。
言い値は支払われるだろうが、そうした仕事は通常の人間では受けられないような、明らかに解決できない類のものが多い。
例を出せば、金持ちの老人から数百枚単位の金貨を報酬に、自殺の幇助を頼まれたこともあった。もちろん、これは普通の人間からすればそうそう受けたくはない仕事だ。
つまり、高額報酬の裏には破滅が含まれていることが多い。
とはいえ、金が大好きなアカリからすれば、そんな仕事を受けない理由はなかった。
「一人娘のヒルトを守ってほしい。私は今すぐにでも、定期船の関係者に根回しをしなければならない」
「王様の態度、ありゃやらねーよっう意味じゃないんかい?」
「おそらくは……しかし、相手から申しこんでくることになれば、それを拒否する理由もないはず」
意外に前向きな人物なのか、というような反応を示しながらも、アカリは問う。
「で、相手はなんだい? 魔物? 闇の国? それとも、定期船の反対者かい?」
「……おそらく、組織の──それらとは違う者達がくる」
「厄介な相手ってことかい。ま、様子見次第かね」
厄介事だと察知しながらも、アカリはい言う。「前金五百、後はそれからさ」
「分かった。それで飲もう」
本人自身が無理な願いと理解しているからか、かなり横暴にも見える条件も受け入れた。




