それぞれの進展
──光の国、ライトロード城。
見慣れた白い天井。模様などが施されていることから、ここが病室でないことは一目瞭然だった。
「……ん、フィア?」
「わぁ! 起きた! 善大王さんが起きたぁ!」
目覚めた善大王はすぐに気付く、目の前にいるのがアルマであることに。
しかし、彼女が戦場にいるはずがない。そういう意味でも、状況が理解できず、ただただ困惑するばかりだった。
「善大王さん?」
「えっ? うん、どうしたんだ?」
「アルマが起こしたのになんか冷たぁい……」
「いやいや、そんなことはないぞ。確かにフィアと間違えたのはどうかと思うが……」
想像以上に現状が気になるのか、冗談をそこそこに善大王は質問をする。
「魔物はどうなったんだ?」
「大丈夫だよぉ。みんなも戻ってきたから、大丈夫!」
軽い状況の確認程度はできるが、仔細な情報ともなるとアルマでは不足でもあった。
「アルマが俺を治してくれたのか?」
「……う、うん。フィアちゃんに、頼まれて、ちょっと変な回復方法させちゃったけど……大丈夫だよぉ」
「それ、大丈夫なのか……」
不安ながらも別れを告げ、そそくさと執務室に向かうと、彼の予想通りにシナヴァリアが公務を代行している様が目に映る。
「世話掛けたな。俺が代わるよ」
「いえ、しばらくは私が請け負いましょう。それよりも先に、善大王様には現状を知っていただきたい」
頷き、善大王はソファーに腰掛けた。部屋の中は綺麗に掃除され、平時よりも整理整頓されている印象である。
ただ、机の上に関しては異次元と見間違える程に散らかっており、紙の束や本などが適当に散らばっていた。
「おいおい、ひどい具合だな」
「戦闘の記録ですよ。この数日間はもっぱら有効な戦術の考察が主でしたから」
この荒れ具合からはそうと思えないが、実際に国家の上位陣が集い、新たな戦術の開発が行われていたという。
シナヴァリアは手渡しで束の一つを渡し、その後に口頭で善大王が倒れてからのことを話した。
「──ということです」
「なるほど、あの後に逃したか……」
「魔物の見逃しと帰還は私の独断です。善大王様が復帰できるのであれば、どうか裁きを」
彼が急いていた理由はただ一つ。責任を負い、自分が消えようとも影響が出ないように尽くしたからだ。
ただのわがままにしか聞こえないフィアの一声を受けながらも、シナヴァリアはそこまでの覚悟をしていた。
「いや、構わない。俺がいないのであれば、あの戦況を支えきれなかった。それに、犠牲者数もゼロなら上等だ」
「ですが、大陸への接触は間近。これでは連絡を行おうとも、準備が間に合うかどうかさえ」
「構わねぇよ、平和ボケの寝坊助を叩き起こすには十分だ」
あまりにも奇妙な言葉に、シナヴァリアは困惑する。
正確には、その奇妙さは安堵させる性質。本来の善大王が持つ、合理性を持ったセリフ。
「(フィア様が虚偽の発言をするとは思えない……だとすると、あの状況で起こした錯乱か)」
極限状態における人間の変化、それはシナヴァリアの方が詳しい。
気質を同じくし、実力差こそあるが、善大王は情報的強者でしかなかった。多くの人間を──仲間を葬りさってきたシナヴァリアとは違う。
アカリの起こしたヒステリーもまた、彼が経験した範疇を越えていない。
「善大王様、あまり無理をなさらぬように」
「……ああ」




