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大空のフィア  作者: マッチポンプ
前編 七人の巫女と光の皇
39/1603

3

「ねぇ、なんであんたがいるのよ」

「お姫様だろ? むしろミネアの方が不釣り合いだろ」


 ヴェルギンの住む家は城から少し離れた砂漠にあった。オアシスがそう遠くないこともあり、居住性が最悪というわけでもない。

 家自体は普通の家という感じ。ヴェルギン程の実力者が住んでいるとは思えない、本当に普通の数人暮らし用の家。


「あたしは師匠の弟子だから来ているのよ」

「師匠……? まさか」


 扉が開けられ、ヴェルギンが入ってきた。


「おう、来ていたんじゃな。どうしたんじゃミネア」

「サンドイッチを作ってきたので、おそそわけです」


 あのミネアが敬語……なんか違和感があるな。


「ミネアの料理はうまいからのぉ。では、食べさせてもらおうかの」


 椅子に座ったヴェルギンはバスケットに入っていたサンドイッチを手に取ると、口の中に突っ込んだ。

 ミネアもそれに続いて一個取り、性格とは対照的に小さく齧っていく。


「会ったのも何かの縁だ。よし、俺も味見してやろう!」


 俺はそれらを見た後、流れるようにバスケットへと手を伸ばすが、ミネアの小さな手が俺の腕をはたいた。


「誰が食べていいなんて言ったのよ」

「俺とミネアの仲じゃないか、少しくらいはいいだろう?」

「駄目! あんたみたいな奴に食べさせるものはないわ!」

「ミネア、そう言わずに食わせてやるんじゃ。この男はワシの知り合いじゃ」


 そう言われ、ミネアは渋々手を引っ込める。俺はそれを確認してからつまんでみた。

 意外においしい。というよりかは、普通に料理ができるという水準を越えている。


「なかなか美味しいじゃないか」

「あんたに誉められても嬉しくないわよ」


 短い食事が終わった途端、ミネアは椅子から立ち上がり、ヴェルギンに掛け寄った。


「それで――師匠! なんでこの男が来ているんですか!」

「ほぉ、ミネアは面識があったんじゃな。ならば話が早い、よしお前ら! 模擬戦闘してみるんじゃ」


 俺は驚き、ヴェルギンに詰め寄ろうとした。しかし、ミネアはそれよりも早かった。


「師匠、なんでこんな男と!」

「なんじゃ、この男に惚れておるのか?」

「そ、そんなわけはないです! こんな気色の悪い変態なんか――」

「なら、ボコボコにしてやればいいじゃろ」


 ミネアはあっさり納得し、俺の方を睨みつけてきた。


「やるわよ」

「ちょっと待て。子供相手に本気は出せないぞ」

「安心せい、ミネアは強い。おそらくじゃが、お主でも簡単には倒せんぞ」


 そういえば、そうだったな。ティアの時にできなかった戦い方を試してみるいいきっかけかもしれない。


「分かった。だが、本当に手は抜かないからな」

「当り前よ。あんたみたいなクズはあたしが蹴散らしてあげるわ」


 決闘場などが用意されることもなく、俺達は家の外の砂漠で戦うことになった。


「ルールは」確認を取る。

「フリーファイト。相手が戦闘不能になれば、勝ちよ」


 俺は頷くと、さっそく《魔導式》を展開した。フリーファイトと聞いた時点で、レディーファーストを意識した戦い方なんてしなくていい。

 しかし、それについてはミネアも同意なのか、気にすることもなく《魔導式》を刻んでいく。


「《光ノ二十番・光弾(ライトショット)》」


 牽制の一撃。案の定というべきか、巫女クラスは魔力で攻撃を読んでいるらしい。

 光速の光弾が砂に叩きつけられ、砂が舞う。少しは視覚阻害を狙ってはいたが、ミネアは目を細めるだけで留めた。


「《火ノ三十二番・炎弾(ヒートバレット)》」


 炎弾が放たれるが、速度はこちらの術よりも圧倒的に遅い。事前に何の術が発動されるかは把握していたが、この術の場合は発動後に回避ができる。

 バックステップで一発回避し、続けて俺が光弾を放つ。これに関しては術発動の影響もあり、完全回避は出来ない。

 ミネアは咄嗟に赤い導力を収束させ、光弾を防ぐ。とはいっても、真ん前でのガードだった為、衝撃波は十分通った。

 しかし、ミネアはやはり強い。あの攻防でも意識を全く崩さず、《魔導式》の展開を続行している。普通ならば導力での防御に移った時点でやめるはずだが。

 術者戦に置いて重要になるのは精神的優位性。気持ちが揺らげばそこから崩壊していく。

 その点で言えばミネアは硬い。俺の方が僅かに優勢でありながらも、攻勢する意思を全く消していない。


「《火ノ六一番・溶火(ヴォルカノ)》」


 中級術か。防御をしてもダメージが貫通するタイプだが、防ぎ方はある。

 空から陽炎を纏った赤色の液体が降ってくるが、俺は右手に導力を集め、力を放出した。

 巫女の才で強化されている中級術を防ぐには不足だが、弾くには十分。

 傘のように広げられた導力で溶岩を受け流し、俺は横に大きく飛ぶ。この一瞬、回避時間を作るには最速の一手が有効だった。

 腕に火属性の特性である破壊が現れ、痛みが伝わっていく。しかし、それは光属性の肉体活性で軽減できる。


「《光ノ二十番・光弾(ライトショット)》」

「馬鹿の一つ覚えね」

「一つの技を極めた一点特化と言ってもらおうか。俺の術は下級術でも、必殺の域にまで高められている」


 一発の光弾がミネアを狙い打つが、やはり回避される。しかし、この時点で勝利が確定した。

 ミネアの背後に刻んでいた《魔導式》が連鎖的に起動し、光弾が追撃する。ただ、これもやはり読まれていたらしく、緊急回避のように転がりながら避けられた。

 さらに上空から光弾が放たれ、ミネアは展開していた《魔導式》を崩して再構成する。


「《火の十番・火球(ファイアボール)》」


 威力から言えば互角、いやミネアの方が少し上か。

 三発の光弾が全て防がれた。ただ、ここまで読み切っていた。


「時間稼ぎは終わりだ! 《光ノ百三十九番・光子弾(フォトン)》」


 俺の得意技は下級術を用いた戦術的誘導。それで勝負が決まれば簡単、終わらずともフィニッシャーによってトドメを刺す。

 ミネア程の使い手が俺の術を読めなかったはずがない。その根拠にミネアはこちらを睨んできていた。

 ただ、防ぐ術もなければ、避けられる体勢でもない。そして、この術は避けようと思っても避けられるものではない。

 光の線が目にも写らない速度で撃ちだされ、ミネアの体を貫いた。

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