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──火の国、フレイア周辺にて……。
迫り来る魔物達と対峙しながら、ヴェルギンは最前線で戦っていた。
神器の能力通り、防御力では最強の彼を突破できる存在はおらず、単騎で藍色瞳の魔物を足止めしている。
さらに、その状態で羽虫や鈍色の魔物まで引き受けているというのだから、《選ばれし三柱》の特異性が際立つ。
ただ、彼が善大王に告げた言葉には、少しの嘘が含まれていた。
「《雷ノ百三十三番・超雷突》」
迅雷が迸り、魔物の物と言われてもおかしくないほどに巨大な、電撃の三本角が前方に生成される。
雷属性ながらも、その角の色は赤色と見紛う程のもの。角自体が電気の塊だが、スパークが走り、二重に帯電しているように見えてしまう。
獅子のような見た目をした藍眼の魔物が、彼を食い殺そうと顎を開くが、それを見計らって口の中へと突進した。
牙が振り落とされるよりも早く突入し、内部から突き破るように後頭部に大穴を開ける。
それだけで戦闘不能に陥らないのは魔物の凄みではあるが、もちろん無傷というわけでもなく、疲弊は見られた。
「食われたらそのまま抜けきれ! 爪と牙に注意しながら戦うんじゃ!」
どうにも、彼の狙いは兵の安全確保だったらしい。魔物を屠るにも十分そうな力を振るいながらも、自分自身で決着は付けない辺りは、彼の師匠気質由来だろうか。
ヴェルギンのサポートで余裕を持った戦いにはなっていたが、皮肉にも彼は状況を打開するような類の存在ではない。
羽虫などの不意打ちで兵は目減りしていき、大型魔物群の圧殺から逃れられない者まで出てきた。
さて、どうしたものかと思案すると同時に、兵の背後に羽虫が迫る。
「後ろじゃ!」
「えっ……あっ、あぁあ……」
その者は錯乱し、大剣を落としてしまった。こうなると、防御の術はない。
だが、咄嗟に一人の盾持ち片手剣士がガードに入り、羽虫を跳ね除けた。それだけに留まらず、後退しながら落ちた剣を弾き上げる。
「取れ!」
「あ、ああ!」
剣が回収されたのかを確認するまでもなく、片手剣士は地を蹴り、跳ぶような速度で羽虫に突きを放った。
そのまま横薙ぎで剣を体から抜き放ち、すぐさま跳び抜けるように後退する。
「追撃だ!」剣士は言う。
「わ、分かった!」
大剣を振りかぶり、羽虫の脳天に叩きつけた。
「オォぉおおおッ!」
一度大きな抵抗感を含ませたが、雄叫びを上げながら打ち出された斬撃により、羽虫の体は真っ二つになる。
屍となった直後、魔物の例に漏れることなく跡形もなく消え去った。
「ワリィな」
「礼には及ばない! お前も支援に入ってくれ」
「……ああ、分かったぜ」
指揮権を握っているのがヴェルギンであり、大剣使いの男は我の強い冒険者だ──とはいえ、今まさに救われたばかりということもあり、片手剣士の指示に従うことにしたらしい。
圧倒的カリスマと実力を持ってして、ようやく統制が取れるという烏合の衆をたった一人だけとはいえ、指揮下に加えたのはなかなかの手腕だった。
ただの一場面と思いきや、戦線の各地では今のような攻撃支援が部分的に行われており、恰も遊撃部隊が存在しているかのような光景となっていた。




