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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
387/1603

5g

 ──火の国、フレイア周辺にて……。


 迫り来る魔物達と対峙しながら、ヴェルギンは最前線で戦っていた。

 神器の能力通り、防御力では最強の彼を突破できる存在はおらず、単騎で藍色瞳の魔物を足止めしている。

 さらに、その状態で羽虫や鈍色の魔物まで引き受けているというのだから、《選ばれし三柱(トリニティア)》の特異性が際立つ。

 ただ、彼が善大王に告げた言葉には、少しの嘘が含まれていた。


「《雷ノ百三十三番・超雷突(ギガボルトチャージ)》」


 迅雷が迸り、魔物の物と言われてもおかしくないほどに巨大な、電撃の三本角が前方に生成される。

 雷属性ながらも、その角の色は赤色と見紛う程のもの。角自体が電気の塊だが、スパークが走り、二重に帯電しているように見えてしまう。

 獅子のような見た目をした藍眼の魔物が、彼を食い殺そうと顎を開くが、それを見計らって口の中へと突進した。

 牙が振り落とされるよりも早く突入し、内部から突き破るように後頭部に大穴を開ける。

 それだけで戦闘不能に陥らないのは魔物の凄みではあるが、もちろん無傷というわけでもなく、疲弊は見られた。


「食われたらそのまま抜けきれ! 爪と牙に注意しながら戦うんじゃ!」


 どうにも、彼の狙いは兵の安全確保だったらしい。魔物を屠るにも十分そうな力を振るいながらも、自分自身で決着は付けない辺りは、彼の師匠気質由来だろうか。

 ヴェルギンのサポートで余裕を持った戦いにはなっていたが、皮肉にも彼は状況を打開するような類の存在ではない。

 羽虫などの不意打ちで兵は目減りしていき、大型魔物群の圧殺から逃れられない者まで出てきた。

 さて、どうしたものかと思案すると同時に、兵の背後に羽虫が迫る。


「後ろじゃ!」

「えっ……あっ、あぁあ……」


 その者は錯乱し、大剣を落としてしまった。こうなると、防御の術はない。

 だが、咄嗟に一人の盾持ち片手剣士がガードに入り、羽虫を跳ね除けた。それだけに留まらず、後退しながら落ちた剣を弾き上げる。


「取れ!」

「あ、ああ!」


 剣が回収されたのかを確認するまでもなく、片手剣士は地を蹴り、跳ぶような速度で羽虫に突きを放った。

 そのまま横薙ぎで剣を体から抜き放ち、すぐさま跳び抜けるように後退する。


「追撃だ!」剣士は言う。

「わ、分かった!」


 大剣を振りかぶり、羽虫の脳天に叩きつけた。


「オォぉおおおッ!」


 一度大きな抵抗感を含ませたが、雄叫びを上げながら打ち出された斬撃により、羽虫の体は真っ二つになる。

 屍となった直後、魔物の例に漏れることなく跡形もなく消え去った。


「ワリィな」

「礼には及ばない! お前も支援に入ってくれ」

「……ああ、分かったぜ」


 指揮権を握っているのがヴェルギンであり、大剣使いの男は我の強い冒険者だ──とはいえ、今まさに救われたばかりということもあり、片手剣士の指示に従うことにしたらしい。

 圧倒的カリスマと実力を持ってして、ようやく統制が取れるという烏合の衆をたった一人だけとはいえ、指揮下に加えたのはなかなかの手腕だった。

 ただの一場面と思いきや、戦線の各地では今のような攻撃支援が部分的に行われており、恰も遊撃部隊が存在しているかのような光景となっていた。


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