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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
385/1603

5f

 ──風の大山脈、本家(ティア)の里にて……。


「余所者が来たぞ」

「あの格好、外界の文化か」


 黒いマントを翻しながら、ガムラオルスはこの場所に訪れた。

 分家側の里はこの戦争に対応し、一時的に無人となっている。つまりは、こちらの本家側に全戦力が集まっているのだ。

 もちろん、彼が特殊な方法で里抜けをしたことは、数人しか知らない。


「族長はどこだ」

「余所者に教える義務は──」

「……答えろ」


 もはや、彼は少年ではなかった。

 道場的強度ではあるが、ガムラオルスはこの世界でも上位の使い手と常に暮らしている。だからこそ、《選ばれし三柱(トリニティア)》としての才覚に目覚めているのだ。


「あちらだ」


 族長テントまで一直線に向かうと、なにも躊躇うことなく入室する。

 そこには、父と母、そしてウィンダート族長が座していた。


「ガムラオルス、帰ってきたのか」と父。

「ああ」

「ガムラオルスは里抜けをしたと聞いたが」

「修行に出していたんですよ。どうにも、予想以上の成長をしたみたいですが」


 さすがに本家を前にしているだけあり、ガムラオルスの父は(へりくだ)るような態度を示していた。ヴェルギンとの暮らしがあった為、父の姿に失望したりはしない。


「なるほど、この状況であれば戦力の増加は望ましい」

「ティアは、戻っていないのか?」


 内心で気にしていたらしく、ガムラオルスは食い気味に聞いた。


「……あやつは戻っておらぬ。あの小娘に殺されたか、もしくは──」

「ティアは生きている」


 間髪入れずに発せられた言葉に、ウィンダート以下、この部屋の全員が閉口する。


「外界で生きている、と」族長は問う。

「ああ、あいつは冒険者として生きている。世界各地の人間を救い、《放浪の渡り鳥》と呼ばれる程に……人々から信頼されている」


 両親は彼の言葉を遮ろうとするも、族長はそれを制した。


「なるほど、やはり……ティアはそれを望んでいたか」

「子のことは知ったるや、か」

「いや……なにも理解してはいない。ただ、歴代の巫女は皆それを願っていた」


 思い出話はここまで、とウィンダートは切り替える。


「その神器の具合はどうだ」

「制御は可能、既に空中戦闘にも難はない」

「上等だ」


 魔物が迫っているだけあり、外界の文化を持ち込んでいるという禁忌を犯しているが、ガムラオルスを戦力に加えることが決定された。

 もちろん、すぐに元通りとは行かないが。


「ガムラオルスは空中で迎撃をしろ。我らは射程範囲に収まった時点で討つ」

「族長、そいつぁねぇだろ! こいつを捨て石にするつもりかよ!」

「いや、俺はそれで構わない。むしろ、それは俺に適任だろう……魔轟風の使い手である、この俺がな」


 訳の分からない単語だが、外界の戦術体系なのだと判断したらしく、誰もつっこみはいれなかった。


「では、その方針で行く。全員を配置につけろ」


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