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──風の大山脈、本家の里にて……。
「余所者が来たぞ」
「あの格好、外界の文化か」
黒いマントを翻しながら、ガムラオルスはこの場所に訪れた。
分家側の里はこの戦争に対応し、一時的に無人となっている。つまりは、こちらの本家側に全戦力が集まっているのだ。
もちろん、彼が特殊な方法で里抜けをしたことは、数人しか知らない。
「族長はどこだ」
「余所者に教える義務は──」
「……答えろ」
もはや、彼は少年ではなかった。
道場的強度ではあるが、ガムラオルスはこの世界でも上位の使い手と常に暮らしている。だからこそ、《選ばれし三柱》としての才覚に目覚めているのだ。
「あちらだ」
族長テントまで一直線に向かうと、なにも躊躇うことなく入室する。
そこには、父と母、そしてウィンダート族長が座していた。
「ガムラオルス、帰ってきたのか」と父。
「ああ」
「ガムラオルスは里抜けをしたと聞いたが」
「修行に出していたんですよ。どうにも、予想以上の成長をしたみたいですが」
さすがに本家を前にしているだけあり、ガムラオルスの父は遜るような態度を示していた。ヴェルギンとの暮らしがあった為、父の姿に失望したりはしない。
「なるほど、この状況であれば戦力の増加は望ましい」
「ティアは、戻っていないのか?」
内心で気にしていたらしく、ガムラオルスは食い気味に聞いた。
「……あやつは戻っておらぬ。あの小娘に殺されたか、もしくは──」
「ティアは生きている」
間髪入れずに発せられた言葉に、ウィンダート以下、この部屋の全員が閉口する。
「外界で生きている、と」族長は問う。
「ああ、あいつは冒険者として生きている。世界各地の人間を救い、《放浪の渡り鳥》と呼ばれる程に……人々から信頼されている」
両親は彼の言葉を遮ろうとするも、族長はそれを制した。
「なるほど、やはり……ティアはそれを望んでいたか」
「子のことは知ったるや、か」
「いや……なにも理解してはいない。ただ、歴代の巫女は皆それを願っていた」
思い出話はここまで、とウィンダートは切り替える。
「その神器の具合はどうだ」
「制御は可能、既に空中戦闘にも難はない」
「上等だ」
魔物が迫っているだけあり、外界の文化を持ち込んでいるという禁忌を犯しているが、ガムラオルスを戦力に加えることが決定された。
もちろん、すぐに元通りとは行かないが。
「ガムラオルスは空中で迎撃をしろ。我らは射程範囲に収まった時点で討つ」
「族長、そいつぁねぇだろ! こいつを捨て石にするつもりかよ!」
「いや、俺はそれで構わない。むしろ、それは俺に適任だろう……魔轟風の使い手である、この俺がな」
訳の分からない単語だが、外界の戦術体系なのだと判断したらしく、誰もつっこみはいれなかった。
「では、その方針で行く。全員を配置につけろ」




