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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
379/1603

5r

 ──水の国、フォルティス南門……。


 魔物接近の報を受けてから何週間か経過し、一応は万全の布陣という状況で、冒険者達は城門傍に待機していた。


「あと少しだね」

「……ええ、でもエルズ達が戦う必要があるの?」


 冒険者ギルド側としては魔物の集団が迫る(ひがし)方面、こちらに正規軍の戦力が集中すると読んでいたらしい。

 結論からいえば、城門傍にも軍人が数人配置されており、(みなみ)方面──城壁からは目視できない距離──には、一個旅団が配置されている。


「シアンがどうにかしたのかな?」

「……たぶん。だとすると、何かあるかもね」


 悪い予感は的中したかのように、突如として闇の国の軍が出現する。

 数が少ないとはいえ、数十人が登場するなどという事態は想定外でしかなかった。


「倒していいのかな」

「大丈夫。相手は闇の国よ」


 一度は迷いながらも、武器を構えて接近してきたことに気付いた時点で、冒険者は一斉に戦闘を開始する。


「しょうがないね」

「いくよ、ティア」


 数百人の冒険者に続くように、カルマ騎士隊の二人は駆けた。

 一度は圧倒された冒険者群だが、ティアとエルズというインチキじみた二人が繰り出すコンビネーションで状況がひっくり返り、死者ゼロという良成績でその場を収める。

 戦闘に参加していた数名の軍人は連絡を取り合い、東部戦線が作戦に成功したことを確認しあっていた。


「ねぇ、エルズ。あれって……」

「魔物が飛んでいるね。となると──見逃したかな」


 魔物の大多数は水の国の上空を通過し、残る二、三割が首都を少し離れた地点に投下される。

 開幕早々の総攻撃を嫌ったのか、城下町の内部に落とすようなことはしなかった。

 とはいえ、知っての通りフォルティス付近の戦力は少ない。白兵戦での敗北を恐れているわけではないことは分かるだろう。

 つまりは、東部戦線での攻撃が肝となっていた。結論を要約するに、魔物の一団は着地と同時に術者達の一斉砲撃を受け、壊滅的被害を受けている。

 一度あることは二度もある、という警戒からの行動なのだが、この場では完全な空振りとなっていた──そう錯覚させることこそ、東部戦線の作戦立案者、シアンの狙いだったのだが。


「おい、あれって……」

「魔物だよな? あれと、戦うのかよ」

「おい、正規軍の! お前らじゃねえのか! あいつらと戦うのはよぉ!」


 冒険者は大半がゴロツキなので、眼前に広がるような事態になれば当然こうなる。

 上級ランクの冒険者すら、驚きを隠せてはいなかった。その中で平然としているのは、ティアとエルズくらいのもの。


「エルズは怖くない?」

「……うん、どっちかというとアイツの方がね」


 彼女の脳裏に存在していたのは、闇の国で戦った吸血鬼の姿。魔物は未知でこそあるが、知らない相手との戦いは既に慣れている。


「ティアは?」

「私は前に戦っているからね。それに、一応は風の星だし」

「一応って……ははっ、でもティアらしい」


 冷気のような圧迫感が満ち始めたその場に、風が流れた。


「私が先行するよ! みんなも後からついてきて」


 単機で魔物へ向かっていく少女──エルズは少し遅れて続く──を見て、冒険者達は自身を奮い立たせる。

 空気、雰囲気、流れ、そうしたものをただ駆けるだけで打ち消した。それどころか、むしろ鼓舞までやってのける。

 《放浪の渡り鳥》は、既に伝説の冒険者の一人となっていた。


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