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──雷の国、最西端の町、《セル》にて……。
「へぇ、立派なもんだねぇ」
アカリは水の国の港に来ていた。もちろん、土地でいえば雷の国なのだが、この場所に限っては特例的に権利が分かたれている。
彼女が見ているのは、水の国所有の軍艦──いや、戦艦だ。
兵を輸送することを最大の目的に定めた、光の国の船とは根幹から違う。戦闘用の艦船だ。
超巨大な砲台を一門、通常運用されている大砲も何十問という数で配備されている。
「(こりゃ、みつかったら面倒なことになりそうだねぇ……さっさと撤収するのが吉かね)」
今回はラグーン王直々の命令でこの地に訪れ、偵察を行いにきていた。雷の国にも偵察部隊は存在するが、アカリには遙かに及ばない。
絵心があるわけではないが、状況判断には十分という程度に速記を進め、逃亡のメドを立てた。
闇の国からの一方的な宣戦布告に始まり、各国が戦闘態勢には入っているが、この期に乗じた国土略奪が起きることには備えなければならない。
「進捗はどうですか」
子供の声が聞こえた時点で、アカリは気配を消し、描写などを中断して観察に務めた。
「姫様! 予定期間以内には納めて見せます」
「(シアン姫……こんな時に来るなんて、まったく律儀なものだねぇ──あのビリビリ姫は引きこもり中だっていうのに)」
笑みを浮かべたまま、シアンは問いかける。
「誤差は」
「一日も出しません」
「いえ、どの程度早くできますか? 可能であれば、一月は巻いてください」
「一月……それは」
「そうですか。では、砲台は最低限で十分ですので、指定数の生産を終えてください」
「姫様もなかなか無理をいいなさる。数十隻を短期間で作れとは……フォルティス王でさえ言いませんでしたよ」
数十隻という単語が出た途端、明確な脅威が現れたとばかりに、アカリの表情が曇った。
「(お姫サマが直々に……こりゃ、思ったよりもヤバイい国かもねぇ)」
雷の国とのビジネスが行える期間はそう長くない、彼女はそう考えている。
万が一、雷の国と水の国が戦うようなことになれば、何の迷いもなくこの場から逃げ出すと。
逃亡への嫌悪感はない。アカリはシナヴァリアから教育を受けた、根っからの合理主義者なのだ。義で命を投げるような真似はしない。
「さてと、ささっと書き終えて報酬をもらうとしますかね」
とはいえ、勝ち馬に乗ることもせず、仕事を達成するという方針は崩さなかった。
そういう意味では、彼女はやはり仕事人なのだろう。




