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沈黙の後、空からは粒子を纏った無数の黄光剣が降り注ぐ。
その全てが光ノ百三十九番・光子弾に匹敵する密度を誇り、粒子には光ノ百十一番・星粒壁以上の反撃性が付加されている。
魔物すらもその絶対的な攻撃には抵抗できず、生命力を失っていった。全ての光剣が降り注ぎ終わった後、生きていたのはコガネムシ型だけ。
防御不可能、回避困難、破壊力極大、超広範囲攻撃。光属性という攻撃適正が中位にある属性ですら、最上級術ではここまで至るのだ。
あの攻撃からは逃げきったらしく、少数の騎士が先行し、津波のように兵が戦場へ戻っていく。
奇妙に見えるかもしれないが、あの騎士達こそが暗部だ。鎧の装備などで判断がしづらく、誰一人気付いてはいない。
わざわざ国が直接推薦した人物だけあり、知らぬ顔だとしても怪しまれるようなこともなかった。
最終戦闘とばかりに各々が攻撃を放っていくが、誰もが魔物の奥の手を忘れている。
藍色の瞳に《魔導式》が走り、術の発動前兆が発生した。
「あれって、《魔導式》かなぁ……ね、どうかな?」
傍で護衛に立っていた七三分けの親衛隊長に聞き、アルマは自分の疑問を解消しようとする。
「確かに……奇妙な光景ではありますが」
不運なことに、親衛隊には魔物が持つ術の存在は知られていなかった。騎士団側との軋轢が原因とも言えるが、こればかりは運が悪いの一言では片付かない。
《魔導式》が発動する寸前、ごく一部の者──騎士団の上位、暗部の半数以上──が気付き始め、後退を告げながら全力疾走した。
混乱し、流動性の低くなった遁走が功を奏すはずもなく、射程内からは逃れられなかった。
数千人規模の兵を焼き払いかねない、超巨大な黒い炎の球が生成される。間違いなく、闇ノ百二十四番・黒炎弾だ。
城壁も含めた、全ての者が焼き殺されることを覚悟した瞬間、その声が響く。
「《風ノ二百十四番・遮絶風陣》」
城壁すら覆いつくすほどの、超巨大な緑色の力場が生成され、その場の全兵力を守るように突風を発生させた。
黒炎弾と突風の壁が衝突した瞬間、最前線に立っていた兵達は一斉に吹っ飛ばされ、壁へと叩き付けられていく。
城壁の上の学徒隊は風圧に煽られながらも、どうにかその場に踏みとどまった。
大半の者が一体何者かと思い、狼狽するが、すぐさま術者の正体に気づく。
「宰相だ! シナヴァリア様だ!」
その速度は人間離れを起こしており、馬に乗っていないにもかかわらず、誰よりも早くその場に到着した。
「本隊の帰還まで、私が全権を握る!」
本隊の帰還という言葉を聞き、誰もが安堵した。こうなれば、本当に時間稼ぎの戦いになる。
ただ、シナヴァリアが指揮に加わった途端、戦況は一変した。
超攻撃的な波状戦略を使い、魔物の巨体を翻弄しながらその場の全兵力で戦闘を行う。
一撃で死にかねないという戦場ではあるが、そこは防御の得意な風属性だけあり、突進などの広域攻撃はきっちり防いでいった。
結局、遠征に向かっていた部隊が戻る前に決着がつき、誰もが予期せぬ自分の力に驚いた。あれほどまでに苦戦していたとは思えない程の、優勢な戦闘運びによって。
全ては彼の策略だった。本隊は馬車で移動している最中であり、到着する可能性があったのは、早馬を用いた数百人前後だ。
ただ、その嘘をついても勝利に導くだけの自信があった、というのが大事なところだろう。




