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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
375/1603

2y

 ──光の国、ライトロード城壁……。


 シナヴァリアが撤退命令を出して一日か二日が経った頃、見逃した魔物らは首都の襲撃を行っていた。

 アルマはその場に立ち止まり、眼下に広がる惨状を見ていた。

 騎士団や聖堂騎士らが応戦しているとはいえ、魔物との初遭遇にして、実戦経験の少なさから状況は芳しくない。


「善大王さん、ふーちゃん……早く帰ってきてよぉ」


 だからこそか、この城壁の上には通常であれば非戦闘員に数えられてもおかしくない、学生の部隊が待機していた。

 親衛隊がアルマの警護も含めて待機し、学徒隊への指示を行っている。中級程度の術であれば利用できることもあり、一応は全員が戦闘に参加はしていた。

 とはいえ、学徒隊についてはひどいものであり、下級術にすら手間取っている者が多い始末。

 下をみれば大人の騎士達が殺され、前を見れば巨大な藍色の瞳と目が合う。そんな状況で冷静さを保ち、いつもどおりに術を使える者がいるはずもなかった。


「僕達……どうなっちゃうんだろ」


 一人の呟きが聞こえ、親衛隊の隊員は叱りつけようとするも、次々と《魔導式》の乱れが広がっていく。

 緊張の糸が張り、泣き出す女児や男児まで出始めた。当たり前だが、普通はこのような子供が死や恐怖への耐性を持っているはずがない。

 しかし、不安が伝播する中、数人の生徒は継続して《魔導式》を展開していた。

 突出している者に至っては上級術に達し、さらに順列を高めている。


「インティ学生兵……できるか?」

「当たり前です」


 そう、彼こそは現在の学園では主席に当たる生徒。かつて、フィアに報復しようと──謝罪さえあれば見逃そうとしていたが──していた金髪の高等部生徒だ。


「《光ノ百三十九番・光子弾(フォトン)》」


 学徒隊の先陣を切るのが上級術だなど、普通であれば考えられない事態が発生していた。

 以前よりも鋭さを増した光の線は光速で迫り、鈍色の瞳を持つ熊型の魔物を打ち抜く。

 その一撃で決着はつかないが、眼球を狙い撃ったこともあり、行動の抑制には十分な効果を示した。

 続々と聖堂騎士が撃破に向かい、次々と攻撃を打ち放っていく。遅れてきた騎士団が総攻撃を行った時点で、ついに一体目の撃破に成功した。

 一人目の攻撃が有効な一手となったことが影響してか、学徒隊達から泣き声が聞こえなくなる。

 続いてインティの弟分である貴族の少年が遅ればせながら、上級術の《魔導式》を完成させた。


「《光ノ百十番・高破光(ホーリーバースト)》」


 短いチャージの後、広範囲に命中する光線が直進していき、空中を飛翔していた羽虫を地面に叩き落としていく。

 そこからはフィアと正々堂々対決をした少年、かつてはフィアの教えを理解できなかったツインテール少女などが続いた。経験の影響か、既に中級術にまで到達している。

 発動された光ノ五十六番・日集(ソーラーチャージ)によって強化された騎士は軽く会釈し、魔物との戦いに向かっていった。

 もとより才能の高かったインティはともかく、フィアの同級生三人組は目覚(めざま)しい成長を遂げている。

 因縁を付けてきた少年は貴族だったが、驕りを捨てて進歩するインティに当てられ、真摯に術の修行を続けていたのだ。

 もう一人の少年はもとより高かった術の能力を高め、順列の向上よりも判断能力や応用を磨いている。

 ツインテールの少女は当時分からなかったことが、どれだけ重要だったのか、そしてどれだけ高等なことを言っていたのかを理解した。だからこそ、退学してしまった友達(フィア)への償いとして、術を学び続けるに至る。

 誰もがフィアという、規格外な存在との接触をきっかけに成長していた。それも当然だ、彼女は他者に力を見せびらかすこともなかった、ミスティルフォードで最強の術者だったのだから。


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