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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
374/1603

3w

 ガムラオルスは唖然としたまま、なにが起きているのかもわからないという状態に陥る。


「師匠、それはどういう……」

「文字通りじゃよ。ただでさえ慣れない用兵をやる羽目になっとる、その上でお前さんの世話まで請け負うほど若くなくての」

「俺は戦えます。ここに来た時に言った通り、火の国の傭兵として……烏合の衆の正規軍になら、加入も……」

「じゃからな、お前のような面倒な奴はつかえんと言っておる。縁がなければ、適当に敵陣へと投げ込み、爆弾のようには使える。じゃがな、仮にも弟子にした奴を使い捨てにはしたくはないんじゃよ」


 つまりは、面倒な性格のガムラオルスは足手まといでしかないのだ。

 それは一騎無双の力を持ってしても同じこと、ただ突出した戦力はただ扱いづらいだけ。なにより、火の国のスタンスがそれを明確にしていた。


「それにな、ワシらの結論は都市防衛なんじゃよ。少ししたら散らばっている国民を集め、戦争が終わるまで守りきる……ただそれだけじゃ。そこでお前さんのような腕っ節だけの男がいても、大きな助けにはならん」

「戦いに参加しない? まさか、師匠がそんな腑抜けたことを言うはず……っ」

「言うんじゃよ。そもそも、ワシは戦うよりも守ることを得意としておる、それはわかっておろう?」


 神器の性質を知っているだけに、形式的な否定形は使えなくなる。


「……はい」

「性質が違う奴を入れるのは、面倒なんじゃよ──馬鹿みたいに派手な成果を出し、見せかけの希望感を与えられるのが、なによりも困るんじゃ」

「見せかけ? 俺は師匠の教えを取り込んでいます。昔とは違う」

「同じじゃよ。お前が活躍すれば、誰がワシの言うことを聞く? 戦火から逃れたいだけの奴が、戦いに赴くお前を助けるか? ……内部で分裂が起きるというのが、一番面倒なことなんじゃよ」


 ここまで言われ、ついにガムラオルスは悟る。

 たしかにヴェルギンは強かった。彼からすれば、父以上に自分を鍛え上げ、今後の指針を示した者という認識で間違いはない。

 だが、本質的に言えば保守派なのだ。戦い、敵を倒すという闘争心は、かつてより乏しかった。何も変わってはいないのだ。

 もはや、ここに彼の求めるものはなかった。


「出て行きます。俺は……俺は戦う。この力を知らしめる為に」

「……なら餞別じゃ、こいつを持っていけ。そして、もう二度と戻ってくるな」


 投げられた剣を受け取ると、あまりの重さに眉を顰める。

 落とす程ではなかった。だが、その重量は明らかに片手剣のものではなく、特に大型なバトルアックスに等しい。

 ガムラオルスは鞘から抜き放ち、刀身を改めた。

 片刃は通常の剣と同じだが、逆側の刃は鋸歯状に加工されている。


「骨断剣、名の通りに骨すら断ち切る剣だ」

「……ありがとうございました」


 最後ともなる謝辞を述べ、ガムラオルスは家を出て行った。

 

「師匠、よかったんですか? あいつは戦力として使えたはず……ですが」

「ワシは嘘をついとらんよ。あやつがいれば、交戦意識を呼び起こしかねない……こうした戦いには参加しないのが最適解じゃよ、今も──昔も」


 その僅かな瞬間、ヴェルギンの表情に若さが表れる。後悔ではないにしても、彼は年老いて悟ったのだろう。


「違いますよね? 本当はティア……あいつ自身の為ですよね」

「ああ、そうじゃ……守りたい者を守れなければ、終わった後に残るのはただの空虚さだけじゃ。たとえ失うことが運命だとしても、その意志を受け取れれば希望となる」

「師匠……まさか」


 ミネアは、師の言葉から一つの可能性をみた。

 はじめから、《星》の寿命について知っていたのではないか、と。


「さぁ、どうじゃろうな」


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