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ガムラオルスは唖然としたまま、なにが起きているのかもわからないという状態に陥る。
「師匠、それはどういう……」
「文字通りじゃよ。ただでさえ慣れない用兵をやる羽目になっとる、その上でお前さんの世話まで請け負うほど若くなくての」
「俺は戦えます。ここに来た時に言った通り、火の国の傭兵として……烏合の衆の正規軍になら、加入も……」
「じゃからな、お前のような面倒な奴はつかえんと言っておる。縁がなければ、適当に敵陣へと投げ込み、爆弾のようには使える。じゃがな、仮にも弟子にした奴を使い捨てにはしたくはないんじゃよ」
つまりは、面倒な性格のガムラオルスは足手まといでしかないのだ。
それは一騎無双の力を持ってしても同じこと、ただ突出した戦力はただ扱いづらいだけ。なにより、火の国のスタンスがそれを明確にしていた。
「それにな、ワシらの結論は都市防衛なんじゃよ。少ししたら散らばっている国民を集め、戦争が終わるまで守りきる……ただそれだけじゃ。そこでお前さんのような腕っ節だけの男がいても、大きな助けにはならん」
「戦いに参加しない? まさか、師匠がそんな腑抜けたことを言うはず……っ」
「言うんじゃよ。そもそも、ワシは戦うよりも守ることを得意としておる、それはわかっておろう?」
神器の性質を知っているだけに、形式的な否定形は使えなくなる。
「……はい」
「性質が違う奴を入れるのは、面倒なんじゃよ──馬鹿みたいに派手な成果を出し、見せかけの希望感を与えられるのが、なによりも困るんじゃ」
「見せかけ? 俺は師匠の教えを取り込んでいます。昔とは違う」
「同じじゃよ。お前が活躍すれば、誰がワシの言うことを聞く? 戦火から逃れたいだけの奴が、戦いに赴くお前を助けるか? ……内部で分裂が起きるというのが、一番面倒なことなんじゃよ」
ここまで言われ、ついにガムラオルスは悟る。
たしかにヴェルギンは強かった。彼からすれば、父以上に自分を鍛え上げ、今後の指針を示した者という認識で間違いはない。
だが、本質的に言えば保守派なのだ。戦い、敵を倒すという闘争心は、かつてより乏しかった。何も変わってはいないのだ。
もはや、ここに彼の求めるものはなかった。
「出て行きます。俺は……俺は戦う。この力を知らしめる為に」
「……なら餞別じゃ、こいつを持っていけ。そして、もう二度と戻ってくるな」
投げられた剣を受け取ると、あまりの重さに眉を顰める。
落とす程ではなかった。だが、その重量は明らかに片手剣のものではなく、特に大型なバトルアックスに等しい。
ガムラオルスは鞘から抜き放ち、刀身を改めた。
片刃は通常の剣と同じだが、逆側の刃は鋸歯状に加工されている。
「骨断剣、名の通りに骨すら断ち切る剣だ」
「……ありがとうございました」
最後ともなる謝辞を述べ、ガムラオルスは家を出て行った。
「師匠、よかったんですか? あいつは戦力として使えたはず……ですが」
「ワシは嘘をついとらんよ。あやつがいれば、交戦意識を呼び起こしかねない……こうした戦いには参加しないのが最適解じゃよ、今も──昔も」
その僅かな瞬間、ヴェルギンの表情に若さが表れる。後悔ではないにしても、彼は年老いて悟ったのだろう。
「違いますよね? 本当はティア……あいつ自身の為ですよね」
「ああ、そうじゃ……守りたい者を守れなければ、終わった後に残るのはただの空虚さだけじゃ。たとえ失うことが運命だとしても、その意志を受け取れれば希望となる」
「師匠……まさか」
ミネアは、師の言葉から一つの可能性をみた。
はじめから、《星》の寿命について知っていたのではないか、と。
「さぁ、どうじゃろうな」




