竜を倒した男
「善大王、ついたわよ」
「……なぁ、途中でなんとなく思っていたが、ここって火の国じゃないか?」
馬車に乗っている日数が二倍だったこともあり、俺は途中で気付きかけていた。
しかし、もしかして雷の国以外に船着き場があるだとか、近道を通っているんじゃないかと訝しんでいたが、どうにもそうではないらしい。
「なんで一々止めてやらなきゃいけないのよ。《魔導式》の設定を何度もやるのは面倒なのよ」
かなり遠回りになってしまったが、水の国で馬車を借りるよりは火の国で借りた方が気分がいい。
「ほら、さっさと降りなさいよ!」
蹴飛ばされ、無理やりに馬車の外に出されたと思うと、ミネアはさっさと馬車から離れていってしまった。
「ちょっと、ちょっと待てよ! 王様に口利き頼むぞ!」
一応言ってみるが、ミネアは何も反応してくれなかった。
向こうに男が見えたような気がするが……気のせいか。
仕方ない、とりあえずは城にまで行くしかないか。
砂漠の中にある都市、それが火の国の首都であるフレイアだ。工業都市風な外見、表は雰囲気に適応したマーケットなどが多く存在している。
前にも言ったが、この火の国は強い人間しか入ることができない。しかし、ここで売られている武具は全て上等なものであり、それを目当てにする商人などは多い。
転売価格では当然高価になってくるので、実力が足りる冒険者などは苦労しながらもこの国に訪れるという。
俺は武器を使わないタイプの人間だっただけに、あまり縁はなかった。
特に見るものもなく、適当に辺りを見渡しながら歩いていると、城についた。入口には屈強な番兵が二人もいる。
「王様に会わせてくれないか?」
「冒険者か? 武具職人か?」
「……冒険、者」
嘘はついていない。元、とついてくるが。
「ならば《魂証》を見せろ」
《魂証》、冒険者になった際に刻まれる証だ。
紋章、石、鉄、宝石と性質が変化していき、見ただけでその冒険者の実力を判断することができる。言うまでもなく、冒険者を引退した俺は除去している。
「あー、あれだ。俺程の人間が会いに来たんだ、さっさと会わせてくれないか?」
「帰れィ! お前のような優男が入れる場所ではないッ!」
知ってはいたが、善大王であることは気付かれていないらしい。ここはさっさと名前を出すべきか。
「お主は……あの時の」
背後からの声に気付き、振り返ってみたところ、そこには見覚えのある顔があった。
「あんた! そういえば、この国にいたんだったな……」
褐色の肌をした筋肉質なスキンヘッドの親父。会ったのは随分前だったと思うが、外見は全く変わっていない。
「ヴェルギン様、この者をお知りで?」
「知っておるがのぉ……なんじゃ、ヴォーダンに用かの?」
「ああ、用があって――いや、それは後で良い。どうだ、一杯やっていかないか?」
怪訝そうな顔をしたヴェルギンだったが、すぐに頷いた。
「久しい再会じゃからのぉ、ここは一杯やっていくとしよう」
俺は魔物に敗北した。そして、今のままでは再び相まみえることになった際、確実に死ぬ。
冒険者でも上位にいた俺は死に瀕するようなことがほとんどなかった。《選ばれし三柱》とやらを除いた人間では、最強を自負している。
ただ、それでも死を覚悟したことがあった。ひどい戦いだった。
それはこの国、火の国での戦い。俺が冒険者として戦っていた頃だ。
火の国に現れたという伝説上の存在、魔物と同等かそれ以上の希少種――古代生命である、竜との戦いの時だ。