動き出した人類
「……ライト」
「どうしたんだ? フィア……お前」
あの世界での話が気付かれたかと思い、フィアは咄嗟に思考を隠蔽した。
「お前……肌が荒れているぞ。年か?」
「えっ? ……あっ──と、年なんて取るはずないよ!」
あまりにもアホな問いだったこともあり、フィアは拍子抜けしたように怒ってみせる。
「それで、何の話だったんだ?」
「え?」
「フィアの体に流れている時間がズレている。なにかあったんだろ?」
外界の時間が止まっていた、という言葉を実感しつつ、それに気付く善大王の異様性を実感せざるを得なくなるフィア。
ただ、幸いなことに遮断が間に合ったらしく、善大王が会話の内容を理解している節はない。
「いや……なんか、変な人に呼ばれて……私もよくわからないんだけど──《星の秘術》っていうのがあるらしいの」
「なんだそれ」
「私も初めて聞いた……でも、作り方は分かるかも」
「妙だな……」
少女の思考を読むのが得意なはずの善大王も、フィアが理解しているはずの《星の秘術》を把握することはできなかった。
それはまるで、存在はしているが隠されているかのような──もしくは、読める形式にされていないかのような感触。
「あっ、それはそうと準備はどうなったの?」
「とりあえずは終わってるとさ。あと少しで出発だぞ」
フィアからの情報で再び数千体規模との戦闘が始まることを知り、善大王は対策を進めていた。 一度は勝利していることもあり、余裕綽々な様子な善大王をみて、フィアはあの空間での出来事の方に注視する。
今後どうするか、《星》をやめることは損失になりかねないか、善大王は少女でなくなった後も愛してくれるのか──そうしたことを考えている内に、出発の時間が来た。
「よし、行くぞ」
「えっ、あっ、うん」
そうして出発した部隊は、前回と同じような戦法で魔物の足止めに特化する。
海を越えてきた魔物達を受けていた部隊達の様子を見ながら、善大王は右手を構えた。
「(後方に飛行部隊が相当数いるが……陸上部隊はここらへんが限界か)」
フィアの言葉を信じるのであれば、全ての魔物が到着してから発動する方が効率的ではある。
ただ、この場では自分にかかる見えないリスクを考慮する余裕はなかった。
「《救世》」
発動と同時に、善大王は凄まじい頭痛に苦しき、片膝をつく。それでも、彼の手からは退魔の光が伸び続けた。
「(くっ……もて、もってくれ)」
次々と魔物が消えていき、紅色の瞳をした魔物を数体葬り去り、その他大勢の魔物も消滅していく。
陸上に到達した魔物を全て討ち滅ぼした時点で、善大王は途轍もない吐き気を覚え、両膝をついた。
「ライトっ!」
十八番の術を足の裏から発動し、フィアは橙色の残光を引きながら善大王の場所へと駆けつける。




