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「ライト、大丈夫?」
テントから出た善大王を出迎えたのは、フィアだった。
「それはこっちのセリフだ。こんな時間まで起きていて大丈夫か?」
既に深夜も深夜。見張り役以外は眠りに落ち、夜更かしをしている者でさえ、眠り始める時間。
「私は平気。それよりも……なにか、体に異変はない?」
「ないが……どういう意味だ?」
フィアは少し迷ったような顔をした後、頷いてから答える。
「ライトには黙ってたけど……《皇の力》には副作用があるの」
「そりゃ、まぁ察してたが……どんな問題が起きるんだ? あれか、フィアが勝手に改造したからか?」
「そうじゃなくて……《皇の力》自体が、使用者を蝕んでいくの。だから、できれば──」
「俺は使う。どんな副作用があってもな」
やめてと言おうとしたフィアを制し、善大王は言う。「あの光景を見ただろう?」
「あれは……ライトが私を納得させる為にしたことで」
「だが、いずれああなる。だから、俺はこの序盤の内にした──余計な犠牲が出る前に、使う覚悟を決めたかった」
善大王の戦術、あの実戦を用いた演習の目的──その最大の部分は、フィアから《皇の力》の使用を許してもらうことにあった。
全ては幹部陣に話した通り、しかし本質はそこではない。言うなれば、兵の強さは防御の強さ。 対して、善大王の《皇の力》は万能の強さ。
予期せぬ襲撃、数による圧殺、進撃の第一手、その全てに対応できるのが彼なのだ。
今から始まる魔物の総力戦を凌ぎきる為、そして魔物を殲滅する最終戦には、間違いなく《皇の力》が必要になってくる。
「フィアが心配してくれていることは分かる。でもな、俺は守りたいんだ、この世界を」
「……」
「俺が生まれ育ち、これから生きていく世界を……フィアが生きていく未来を、俺は守りたい」
「……」
沈黙しか返さないフィアに、善大王は困ったような顔をした。
「心配しないでくれ。俺まで不安になる」
「ライト」
「なんだ」
「この世界を守りたい、本当の理由は?」
「……今言ったのが本音だ」
「誰にも言わないから」
「実際、さっきのは全部嘘だ。幼女以外はどうなってもどうでもいい」
真顔で言う善大王を見て、フィアは笑う。本来笑えない場面にもかかわらず、一番安心したと言わんばかりに、笑った。
「うん、やっぱりこれがライトだよね」
「まったく失礼なことを言う娘だ」
どこか遠い存在になりつつあったかのように感じた善大王、それが自分の思うままの姿だったことに、フィアは安堵しているのだろう。
「それはそうと」
「ん?」
「全部嘘って、私の未来も?」
「……うーむ」
「ねぇ、私が大人になっても……恋人だよね?」
「うーむ」
答えはなく、善大王はやむことなき蹴り攻撃を受け続けた。




