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──陣営テント、会議室にて……。
「両翼の部隊を待機させた理由、説明願えますか……善大王様」
そう言ったのは、主力部隊の一隊を率いた男だ。
数百人以上を指揮する、上位の幹部であるが為、この場での発言権は決して弱くはない。
今回に限っては完全な正論でもある為か、それとも事前の打ち合わせからか、シナヴァリアを含めて誰も擁護に入らなかった。
「善大王に意見する愚を理解しての言葉か?」
「……部下が無抵抗で殺される様を見て、立場など関係ありますか?」
「無抵抗ではない。戦っていた、戦う技術も持っていた……そうだな、強いて言えば経験不足と運の悪さだ」
この話口調を聞いて、多くの者が沈黙の嫌悪感、軽蔑を抱く。
「両翼の部隊を含めれば、もっと犠牲者は減らすことが可能だったはずだ!」
もはや敬語など使う余地もなしと、大隊長は激昂した。
「ああ、そうだな。奴の放った炎の雨、もっと密度の高い部隊ならどうなっていただろうな……それに、犠牲を減らせるのもこの戦いだけの話だ」
善大王は席を立つと、悪びれずに告げる。「今回は実戦を利用し、対魔物戦の演習を行った」
「演習……あの場で? 相手は伝説上の存在、それを相手に慢心したことを……」
激情に捕らわれる大隊長をみて、善大王は嘲笑する。
「今回の襲撃が三体であることは読めていた。そして、事実三体でしかなかった」
「それは……天の巫女のご助力で」
「ああ、問題はそこじゃないんだ。今回は、正直どうにかなると確信していた。事実、左翼と右翼は犠牲ゼロでの勝利だ」
これには異論はないとばかりに、会議場は静まり返った。
「しかし、それは奴らが先触れでしかなかったからだ。尖兵が消されたと知れば、奴らの侵攻も加速するだろう」
「ならば──」
「なら、あえて倒さずに放置するか?」
間髪を入れない返答に、大隊長の流れは断ち切られる。
「あの場では、確実に三体を倒さなければならなかった。そして、あの三体以降、確実に到来する数は増える……なら、最初の内に練習しなくてどうする」
誰もが納得した。確かに、善大王の言うことは正論である。
今後少数で来たとして、それまでの魔物で予備知識を得なければ、その経過で犠牲になるものが増えるかも知れないのだ。
「さらに言えば、俺としてはずっと先まで見ている。今のような最高戦力で戦えるのは序盤だけ。終盤になれば戦地が広がり、必然的に戦力がバラける……今回の戦いを生き残った者ならば、魔物を倒す為の方法も、指揮の取り方も少しは理解できただろう」
魔物という驚異を前に、兵の数や勇名を馳せた精鋭という、集団意識を利用した鼓舞で正気を保っていた者達とは違う。
彼だけが、魔物を前にして一切恐怖せず、今後のことを考えていた。
「だからこそ、今回は騎士以外を連れてこなかった。ノイズなく、この戦いでの体験を吸収させる為だ」
そこでシナヴァリアが引き継ぐ。
「私とダーイン氏も知っていた。そして、その通りに実行した。善大王様は期待し、私達もその期待に応えた──問題はないと思うが」
宰相シナヴァリア、最上位貴族のダーイン。この二人が関与している時点で、もはや誰も異を成すことはなくなった。
「では、明日以降はさらに部隊を細分化する。細かい編成や配置については、ここにいる全員で話し合ってくれ。今回得た知識を元にすれば、俺が加わる必要もなかろう」
会議室を出て行こうとした時、善大王は足を止めた。「……部下を軽視する考えは、反面教師にしてれ」
最後の言葉で、誰もが善大王に抱く感情を変えた。




