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赫々たる深紅の双眸。開かれた口から紡がれていく言葉も、内在する思考も、全てがその部位に向けられていた。
城や砦の如き巨躯でも、質量的に不可能としか思えない飛行も、二や三番目の後回し。
既に第一戦目では勝利しているにもかかわらず、士気の減退は見て取れた。
「(あの二体とは根底から違う……人間が団結して立ち向かうような、そうしたものですらない。それはまるで……)」
善大王の脳裏には、そこにある絶対の死がちらつく。
しかし、死に対して怯えたりはしなかった。あるのは、魔物への恐れだけ。
勇気を持ち、理性で己を戒めるからこそ、この相手に抱く恐怖は増しているのだ。
「ライト……行くよ」
「ああ」
「《天ノ百二十三番・輝煌撃》」
開幕一撃目。フィアの発動した術により、周囲に凄まじい熱の余波をまき散らしながら、極太の光線が直進していく。そして、着弾と同時に三ツ首翼龍の片翼を切断した。
「さすがはフィア、あんな奴にも有効打が入るんだな」
「事態が事態だし、もう出力を抑えている場合じゃないからね」
フィアと密着している善大王はともかく、鉄鎧という重装備の兵は冗談抜きに苦しんでいる。
この術によって発生した余波は、下級術の攻撃に相当するダメージだ。攻撃されると思っていなければ、驚き苦しむくらいは当然のことである。
「(今後は陣形を考え直した方がいいかもな)」
強力な一撃で撃墜するかと思いきや、片方の羽だけで飛翔を続行し、部隊の上空を通り過ぎようとした。
「ま、俺も最低限はやらせてもらおうか。《光ノ百三十九番・光子弾》」
練度で言えば彼の中でも二番手につく技なだけはあり、紅瞳の魔物の飛行を阻害する程度の効果は示した。
表現は文字通りであり、フィアのように翼を切断したわけではない。
第一撃目の接触が終了すると、手番を交代したかのように、魔物側の攻撃が開始された。
空中から黒い火炎を放射し、数千人規模の主力部隊を一気に焼き払おうとする。
範囲からの離脱は無理と思いきや、もはや全員が攻撃を読んでいたとばかりに、回避行動を開始していた。
そして、全員がある地点をゴールに定めていたかのように、速度を緩めていく。
火炎が地面を焼き焦がす中、その中央に残っていたのは、善大王とフィアだけ。
「おおよそ、読み通りだな」
「だって、私には分かってたんだから」
火炎の直撃を受けているように見えたが、二人は太陽の如くに煌めき、一切の攻撃が効いていないかのような顔をしている。
よく見ると、二人は同時に導力を放出し、互いの体に密着するように圧縮展開していた。
ただ、これ自体は別段おかしいことでもない。
魔物が放っているのは、範囲こそ異常ではあるが、基本的にはただの炎にすぎないのだ。ならば、天才術者の二人が制御した導力を突破できるはずがない。
つまり、一番の問題は魔物が攻撃範囲を変えることだけだ。
挑発の意も含め、善大王は部隊の者達を鼓舞するように声を張り上げる。
「知性を持っているならば、奴としても俺達の撃破を優先する。それは──」
「この兵の壊滅よりも、私達が及ぼす変化の大きさを理解しているから」




