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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
360/1603

4

 全員は馬から降りた状態で待機し、魔物の姿を視認した瞬間、善大王は叫んだ。


「戦闘態勢!」


 事前に打ち合わせを済ませており、最前線の善大王に続く部隊の他、左右に伸びていく隊が一斉に前進していく。

 主力の善大王部隊はもっとも巨大な、相手の隊長と思わしき魔物へと挑んでいった。

 残る二部隊は両翼から接近してくる中型の魔物を請け負う。

 常識的に考えれば、善大王の主力部隊に大量動員されそうなものだが、実際は全部隊の二割ほど。左右は四割と、圧倒的に配分を間違えたような構成になっていた。

 ただ、それでも成立する。

 藍色の瞳をした中型の魔物──それでも《風の大山脈》で戦った蟲型の大きさ──は飛行状態で接近してきたが、両部隊の先制攻撃──上級術数十発に、中級術数百発──によって翼を打ち抜かれた。

 地に落下してくると同時に、上級術の肉体強化──光ノ百四番・聖栄光(グロリアスフォース)──を受けた近接特化の騎士達が凄まじい機動力で包囲する。

 左翼部隊はシナヴァリアが指揮している為か、それらの肉体強化の他に風ノ百二十五番・風防鏡(クリアーウインド)を受け、一発限りの物理耐性を持っていた。

 対する右翼部隊はダーインが担当し、二百番台の攻撃術による火力支援が行われている。


「シナヴァリア、状況はどうだ」

『現在、負傷者はゼロ。攻撃も有効打となっています』


 主力部隊が紅瞳の魔物の接近してくるを待っている為、善大王は部隊の状態を確認していた。

 指揮官だけではなく、連絡兵との通信を常時繋ぎ、具体的な状況の変化も耳に入れる。


『左翼、近接部隊の波状攻撃が続行中。全ての攻撃を回避しております』


 左翼部隊は圧倒的な数の暴力を基本に、各人が攻撃しては後退を繰り返していた。これにより同士打ちを防ぎながらも、止まることのない怒濤の連撃が成立できている。

 そこまで遠くない為、口頭説明での戦況は目視でもある程度は確認できた。

 翼を打ち抜かれた翼龍型は、蛇のように尻尾や牙での攻撃を主体とし、時折黒い体液を放っている。

 元々飛行するのを前提としていることもあるが、それでも未だに攻撃が命中していないのは、純粋に凄まじいことではあった。

 ただ、それもそのはず。かつて蟲型と戦った善大王が使っていたのは、中級術の肉体強化。

 それが上級術ともなれば、動きの次元が根底から異なる。それこそ、ティアのスピードの二、三倍にはなっているのだ。注釈する必要もないが、上昇しているのは速度だけでもない。

 肉体が発光していることも相成り、蛍の舞を見ているかのようだ。


『右翼、前衛の後退に合わせ、術者隊の上級術が放たれました。効果は覿面(てきめん)の模様』


 左翼は一撃死がない安心感を軸にし、全軍突撃という戦術を用いていたが、右翼の前衛は飽くまでも防御重視。

 魔物の動きを制限しながら、右翼部隊の六割を占める術者の総攻撃により、一撃で大打撃を与えるという戦術。

 言うまでもないが、光の術とはいえ上級術の一斉射撃ともなれば、余波も凄まじい。だからこそ、左右に分けて運用をしていたのだ。

 結果から言うに、初の魔物撃破を成したのは右翼部隊。いくら火力が低くかろうとも、術の火力は着実に敵の体力を削りきる。

 左翼部隊が撃破を終わったのは、その少し後。

 まだ余裕があるのか、悔しがるような態度を示す者こそいたが、犠牲者がゼロなのでシナヴァリアも叱責はしない。


『善大王様、戦後報告です。左翼部隊の犠牲者はゼロ、負傷者十──こちらは現在治療中です』

「負傷原因は」

『衝撃や(つぶて)の掠りです』

「想定通りだ」


 直撃が一人もいないのであれば上等、と善大王はすぐさま判断を下した。


『右翼部隊、重傷者一名。集中治療を用いれば、ただちに戦線復帰が可能です』ダーインは言う。

「分かった。よくやってくれたな」


 右翼部隊の前衛は少数であるからして、聖堂騎士を含めた精鋭で固めていた。それでも人数のカバーに限界があるらしい。


「ライト、そろそろ射程に入るよ」

「分かった」

 小声で答えると、彼は大声を張り上げた。「接触だ、武器を構えろ!」


 善大王が音頭を取ると、全員が呼応するように雄叫びをあげる。

 それと同時に、彼はフィアをお姫様抱っこしたまま、走り出した。


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