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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
359/1603

3

 軍団級の戦力を引き連れ、善大王は最東端への行軍を開始した。

 聖堂騎士の中でも上位の者から順番に、ちょうど半分の人数を連れている。残る半分は光の国に待機し、現場指揮官を無視した独立防衛行動を許されていた。

 集団行動としては安易にも見えるが、聖堂騎士は地力が違うので、運用法法も変わってくる。

 しかし、そうした事情は大きな意味を持っていなかった。少なくとも、光の国が防衛を開始するのはまだ先のこと。


「ライト、大丈夫?」

「ああ、十分眠れた」


 善大王は軍の最前線に立ち、フィアと共に軍馬──残念ながら白馬ではない──に跨がり、移動している。

 聖堂騎士やシナヴァリアの配下──つまりは暗部──を除けば、全員が騎士団の所属であるからして、馬での高速移動が実現されていた。

 なにぶん魔物という存在を認知しているだけに、雑兵は運用しない。

 いずれはそうした矮小戦力も運用しなければならないが、少なくとも現状ではそれは不可能。

 というよりも、ここで戦わせる騎士達に対魔物戦闘を習得させることが主目的である。

 この場では指揮権を持たない下級騎士でも、今後は十数人の兵を運用することになる。その時に実戦経験があれば、最上位命令を待たずとも小回りを利かせることも可能だ。

 全てが伏線。この第一陣、ほぼ総力戦に当たる戦いにおいても、善大王は計算ずくで動いている。

 閑話休題、こうした長期の戦いを繰り広げる算段を立てているからか、部隊には兵站の輸送車もついてきていた。

 全部隊は一定時間毎に休憩し、夜には野営を行う。主力である善大王、上位貴族らはそうした休憩以外にも、この輸送車内で休みを取っている。

 言うなれば、本当に善大王は疲れていないのだ。今後、誰よりも疲労することにはなるのだが。


「それで、後どれくらいかかるかな?」

「おいおい、天の巫女がそれを言うなよ……まぁ、あと一日くらいか。陣地の構築を終えた明日の夜には、迎撃準備が終わっているはずだな」


 今後の予定を口頭で伝えると、善大王は意識を最低限のラインに調整する。

 疲れもそうだが、この中で魔物の存在を認知しているのは、ただ一人……善大王だけだ。

 彼だけがあの恐怖を知り、彼以外はこのそうそうたる顔ぶれに安心し切っている。


「ライト……絶対に、ライトだけは守ってみせるから」

「俺はフィアを優先して守る、とは言わないぞ。自分の身は自分で守れ」

 冷たい発言をした後、細めた目で善大王は呟く。「俺は、こいつらを守る」

「うん、そうだね」


 国家元首の、そして魔を退ける者の代表として、彼は文字通りの善大王(・・・)となっていた。

 そんな態度でも、フィアは不安を抱かず、嫉妬もしない。

 彼が冷徹な指揮官になっているわけではなく、自分への信頼からそう言っていると理解できていたからだ。

 気を引き締めた途端、フィアは自戒心由来ではない、外界からの刺激で表情を厳しくする。それは、善大王も同じだ。


「ライト」

「分かっている。数や位置は知れるか?」

「うん。ちょうど前方から三体。その中の一体は……相当強いよ」


 封印が破られ、その尖兵としてこの世界に現れた者達。

 彼女の言葉を信じるのであれば、そのうちの一体はただの斥候などではない。

 彼はフィアに逐次の報告をさせるように合図すると、すぐさま通信術式を開いた。


「シナヴァリア、敵襲だ。手筈通り行え」

『了解しました』


 指揮系統の構築に関しては、シナヴァリアが主体となって動いている。

 餅は餅屋と軍師に一任するのは当然にも見えるが、戦術構築技術は善大王も引けを取っていなかった。

 それでも彼に任せたのは、強い信頼感と──善大王が指揮をする余裕がないことを意味している。


「接触までは、もう少し時間があるみたい」

「なら好都合だ──いや、今回はあえて相手の想定通りに動こう」

「えっ……まさか」


 いつも見せる三枚目気味で余裕を持った面ではなく、現実的な善大王の思考をフィアは察した。


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