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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
357/1603

東の魔

 ──光の国、資料室内。


「ライト、あんまり無理しないで」

「まだ奴らの計画がつかめていない。せめてそれが分かるまでは」


 情報と呼べるものを全て確認し、善大王は組織の動きを探っていた。

 しかし、結果は芳しいとはいえず、有力な情報が何一つとして増えていない。

 そうした資料の洗い出しを行い続け、既に一ヶ月が経っていた。ここ三日は眠ることもなく、常に資料室に籠もって確認をしている始末。

 フィアは幾度も眠るように言ったが、彼は耳を貸さなかった。


「……これは」

「どうしたの?」


 無視してもおかしくない状況でありながらも、善大王はフィアに自分が見つけた紙を渡す。


「……ティアの渡航? 闇の国、って書いてるけど」

「何か関係しているかと思ってな……いや、ただの思い過ごしかもしれないが」

「ちょっと待って。その時なら……ディ……ラ……」

「なんだ? もっとはっきり言ってくれ」


 フィアが困惑したような表情を浮かべると、すぐに心配そうな顔になり、善大王の体を揺らした。

 途端、視界が歪み、彼の視界には天井が映り込む。

 一瞬、全てが完全な闇に閉ざされたが、すぐに声が聞こえてきた。


「……いと……らいと! ……ライト!」


 だるそうに首を振ると、善大王は目を開けた。


「(転倒するなんて……疲れているな)」


 起きあがろうとした時、彼は気づく。毛布がかけられていることに。


「……フィア、あれから何日経った」

「二日だけど……よかった」


 効率主義者の善大王がここまでの失態を起こすなど、そうそう起きることではない。

 しかし、実際にそうなっているのだから、あり得ないなどとは言えないのだ。

 本質的にいえば、この行動は彼の性質に反するものではない。戦争が発生し、自分の予測の範囲を逸脱した世界になる──それを防ぐというのが、善大王にとっての最前手だった。


「戦争は?」

「まだ起きてないけど……」

「そうか」

「それでね。話覚えている?」

「ああ、続けてくれ」


 二日前の話をしてほしい、と彼が思っているのはフィアも理解している。だからこそ、起きたばかりだというのに、説明をし始めた。

 他人からすれば気の利かない上、空気の読めない行動だが、善大王からすればとても助かる行動である。


「ティアが闇の国に行ったのは、たぶんディードって人の為だと思うの」

「……ディード? 誰なんだ、そいつは」

「私もよく分からないけど……ライムの知り合いみたい」


 ライムの知り合いにして、ティアが闇の国に行くことになった理由。

 そこまで情報を並べてみるが、別段なにかが見えてくるということはない。


「ティアが戦争について探ったわけではないのか」

「たぶん」

「確認は取れるか? ディードという人物の話も聞きたい」

「うん! じゃあ今から──」


 フィアが通信を始めようとした瞬間、善大王とフィアは窓に向かって走った。

 空を超高速で飛翔する藍色のエネルギーを、二人の瞳は捉える。

 その光は轟音をあげ、残光を残しながら光の国の上空を通過し、東に向かっていった。その方角にあるのは、未開の地だ。

 二人が沈黙のまま、危機感を覚えて外を眺めていると、すぐに大気を振動させる爆音が轟く。

 途端、東の空から黒い煙が上がり、瞬く間に空は灰色に染め上げられた。

 今はまだ昼のまっただ中のはずだが、太陽すら遮られ、世界は薄暗くなる。

 ひどい曇天の日と比喩すれば分かるだろうか。それまでが晴天だったという時点で、この急激な変化がどれほど異常かは判断できるだろう。


「フィア……」

「うん。たぶん、魔界の封印が破壊されたと思う──完全ではないにしろ、魔物が通るには十分だと思う」


 それを付近で見ている人間がいないからか、フィアも完全な状況の把握はできていない。

 とはいえ、彼女の予測は世界の全てを知った上の推測であり、それが外れることはおおよそないと考えて間違いはないだろう。

 二人の疑問に対する解答であるかのように、静まりかえった世界に大きな音が響いた。

 それは、人間の声だった。


『私は夢幻王ダークメア。ミスティルフォードに住まう全ての人間に向け、宣戦布告を行う』


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