終焉の戦争
厚手のカーテンの隙間からは細い光が差し込み、暖色ランプだけが明かりの部屋をうっすらと照らしていた。
橙色の灯りを辿っていくと、ダブルベッドが目に入り、その上では一人の男性と麦色の髮をした少女が交わっていた。
「お兄さん……これって」
「大丈夫。俺に体を委ねて」
優しげな声を少女の耳元で囁くと、善大王は唇を緩衝材にして幼い耳たぶを甘噛みした。
最初こそは平気な様子をしていたが、段階的に進めていく性欲高揚の儀式──手での愛撫や、舌を絡ませる接吻、裸で互いの体を調べ合うなど──を終えているだけに、小さな嬌声をあげる。
「可愛いね」
美形の大人に可愛い──愛玩動物的ではなく、女性として──と言われ、少女は素直にうれしくなっていた。
ただ、人間としての本能からか、自身の痴態が露わになっていることもあり、恥じるように顔を隠す。
目は見えずとも、紅潮した頬と開いた口だけは善大王の視界に入り、遊び慣れたような悪戯な笑みを浮かべた。
「じゃあ、解していこうか」
「……う、うん──」
少女が自らの意志で彼の姿を見ようとした時、扉は開け放たれる。
「ライトっ!」
「げ……」
水色のエプロンドレスを身にまとい、頭には空色のリボンを結んでいるという、人形のように愛らしい少女──フィアが現れた。
予想通りか、彼女はまさに激怒している最中といった様子で、顔を真っ赤にしている。
善大王は咳払いをすると、両手を開いてフィアに近づき──もちろん全裸のまま──演技臭い口調で話し始めた。
「お、おう……フィアか。どうしたんだ? いや、言わなくてもわかる。きっと嫉妬をしているんだな、そうだな。よし、なら二人とも抱こう」
そう言いながら肩を組んだ途端、彼女の怒りは最高潮に達した。
「馬鹿ライト!」
軽口を叩いた善大王の腹部にパンチを打ち込むと、すぐにそっぽを向く。
「知らない」
「……フィア、嫉妬するのは可愛らしいが、それはいけない。そこは、怒りながらも仲直り性こ──」
「あ?」
比較的冗談にならない、少女ながらもドスの利いた声を聞き、善大王は黙った。
彼女の背後には橙色の《魔導式》が控えている。文字通りの、最終警告なのだろう。
仕方ないと善大王は振り返り、己の無垢を晒したまま、唖然としている少女へと言葉を贈った。
「美しいレディ、残念ながら今宵の舞踏会はここまで。夢から覚めたら、魔法は解けているよ」
困惑していた少女は、言葉を発する前に眠りに落ちる。
「……ふぅ、フィアも無粋だな。俺は、こういうことだけは公認だと思っていたが」
不満を言いながらも、善大王は少女にバスローブを羽織らせ、毛布を掛けた。
「……それを私とライトの部屋でやらないでくれない?」
「いやいや、フィア。それは傲慢だ。ここは借り受けているだけ、いまや我らは放浪の民であり、ここも仮初めの宿さ」
気取ってこそいるが、フィアは怒り出したりはしない。
「……まぁ、そうだけど。それにしても、事態は重いわ」
フィアが口調を変えた時点で、善大王もおふざけのような雰囲気を消し、低い声で言った。
「外に出よう」




