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「善大王さん」
「おっ、シアンか。いや、騒ぎ起こして悪かったな」
「い、いえ! こちらこそ……すみませんでした。父を止めることができなくて」
頭を下げてきたシアンをみて、逆に恐縮してしまった。
「謝られるとこっちが申し訳なくなるよ。気にしなくていいからさ」
顔をあげたシアンの顔が涙目でないことに安心し、俺は屈みこんだ。
「うん、泣いていない顔の方が可愛いよ」
「そういうことは、フィアちゃんに言ってあげてくださいね」
軽く流されてしまった。
「善大王さん、あなたには伝えておかなければなりませんね。わたし達のことを」
「巫女とかって話だろ? ちゃんと聞いていたぞ」
「《選ばれし三柱》、その名前に聞き覚えは?」
俺は眉を顰めると、立ちあがった。
「一度だけ。雷の国でアカリという女が言っていたのを聞いた」
「巫女はその《選ばれし三柱》の一部なんですよ。各属性に三人ずつ、計二十一人。《星》、《太陽》、《月》の三柱によって構成されています」
だとすると、あのアカリとかいう女も巫女と同等の実力を持っていた、ということか。
確かに、ただの術者と比べて高い実力を持っていたことは窺いしれていた。それに、最後の一発は二百番台だった。
術は難度に段階がある。大きく分けるのであれば、九十番までが術者でなくても使える範囲となる。
それ以降を使えるようになると術者となり、二百番台を使えるようになれば術者の中でも上辺となってくるのだ。
冒険者だけで言えば、二百番台を使える人間は二十人を割ってくる。実際問題、二百番台ともなれば、小さい城程度を一撃で破壊することが可能なのだ。
つまるところ、そんな奴はどっかの国に雇われるだけの資質を持っている。冒険者を続ける必然性があまりないのだ。
「巫女と同じってことは、そいつらも神に選ばれているのか?」
「そこは詳しく知りませんね。先天的に才能を持ってはいますが、覚醒するかどうかは本人次第ですし。見たことはありませんが、後天的に変化する人もいるみたいですし」
「となると、巫女以外は俺に近いのか」
「そうですね。ですが、現状は彼等の方が実力は上でしょうね」
「どういうことだ?」
「《選ばれし三柱》は卓越した才能と、それを支える道具を持っているんですよ。善大王として経験の浅い善大王さんでは、たぶん勝てません」
巫女に勝てない、それは分かった気がするが、他の連中にも負けるというのは何か気に入らない。
相手が本気だったかはともかくとし、俺は一応、その一人に勝利している。
「ま、そういう連中にはあんまり喧嘩を売らないようにするよ。それはそうと、馬車を貸してくれないか? シアンの名義で」
俺はかなり大事な問題を解決しようとした。
「父に頼めば用意してもらえると思いますが」
「あいつに頭は下げたくないな」
「……ですが、わたしも用意できるような権力は――あっ、そうです。ミネアちゃんに乗せてもらってください」
「ミネア?」
「はい、わたしのお願いで火の国に向ってくれるそうなので、頼めば乗せてもらえると思います」
かなり拒否られそうな気はするが、シアンがそう言うならば試してみよう。
「ありがとう。じゃあ、また今度会いに来るよ」
「はい、ご無事を」
俺はシアンと別れると、ミネアのいるという城門付近に向って歩き出した。