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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
345/1603

17

 朝日が差し込み、善大王は目を覚ました。

 隣には、ぐっすりと眠っているライカがいる。顔の部分に日光が直撃しているというのに、起きる気配はなかった。

 彼女に気を遣ってか、善大王は窓のカーテンを閉め、少し着崩れた寝巻きを整えてから部屋の外に出る。

 朝の散策をしていると、忙しそうに駆け回る者達が目に入るが、それらとは明らかに身分の違う少女が善大王に向かって手を振っていた。


「あっ、善大王さん。おはよ」

「ああ、おはよう。アルマはどうだった?」

「一人で少し寂しかったけど、頑張れたよ!」

「そうか。偉かったな」


 善大王は期待で目を輝かせているアルマの頭を撫でると、額を突く。


「可愛い奴め」

「えへへ……それほどでもないよぉ」


 二人は城の更衣室に向かい、別々の部屋で祭り用の装束に着替える。

 浴衣という服であるらしく、着替えるのに凄まじい手間──女性貴族のドレスほどではないが──がかかるものだが、お祭りだからと簡易形ではなく、正式なものを選んだ。

 それから夕刻まではアルマを伴い、出店巡りなどを改めて行うことになった。

 その途中、シアンを発見し、善大王は話しかけようとする。

 しかし、かつてヴェルギン宅で出会ったニオが目に入り、関わるべきではないと判断した。

 かくして、宣言通りに夕方頃は雷の国の中央広場に向かい、祭りの開催を待った。

 舞台に明かりが灯された途端、辺りで騒いでいた者達も静まり返り、壇上へと注意を向ける。

 すると、ラグーン王に続き、ライカ、そしてフィアが現れた。

 ラグーン王とライカは異世界風の着物だが、フィアは天の巫女としての参加だからか、いつかの巫女装束に身を包んでいる。

 ただ、以前との差異として、顔の部分を隠すベールが存在していなかった。

 ラグーン王は祭り開催を告げ、長くもなく、短くもない挨拶を無難にこなしてみせる。

 それ自体は形式的なものであるが、王の発言ということもあり、盛り上がりの具合も上々だ。

 ライカも事前に打ち合わせをしていたのか、普段の彼女からは想像もできないような普通な内容を言っただけ。

 ただ、真っ当な姫が嫌われる理由があるはずもなく、歓声があがる。過剰すぎのような気もするが、普段のライカがアレなので、この反応にも納得がいく。

 ここまでは善大王の想定した通りなのだが、フィアが一体どのような役割を持っているのか……彼の興味は、初めからそこにしかなかった。

 フィアにスポットライトが当てられた瞬間、善大王は軽く頭を抱える。


「……みもご加護を……それで……」


 マイクという拡声機を使いながらも、その具合だった。

 何かを言っているのだが、善大王以外は誰もその言葉の意図を掴めていない。彼ですら、音では認識できていない、と付け足すべきか。


「なぁ、何って言ってるんだ?」

「さぁ?」

「というか、天の巫女ってあんな顔だったんだな」


 天の巫女の顔が初めて知られるであろう、この祭り。ただ、当の本人としては、役に責任転嫁をしづらいこともあって緊張しているようだ。

 この三年間でおおよそ改善されたとはいえ、彼女は未だに対人恐怖症持ち──ついでにいえばあがり症も──である。

 ざわめく会場を見て、フィアは大粒の涙を溜め、今にも泣き出しそうになった。

 だが……。


「(フィア、頑張れ)」

「(ライト? ……あっ、ライト!)」


 人ごみの中だというのに、フィアは一瞬で善大王を見つける。


「(一緒にいてやれなくて、ごめんな。だけど、ここはフィアの勝負だ)」


 善大王のエールを受け、勇気が出たのか──それとも、彼が見ている前で無様な姿を晒せないと思ったのか、彼女は涙を振り払って強気な表情をする。


「異世界文化を称えんとする雷の国の業、神への反逆にも近きそれを、今日この時に限り、神の名の元に全てを赦します。本日は罪科などを放擲し、最高の夜となる事を神の代行者、天の巫女としてお祈りいたします」


 一転し、しっかりとした、聞き取りやすく、耳心地のよい声を受け──会場は静まりかえった。

 それをみても、フィアはうろたえない。ただ、もう少しで狼狽することだろう。

 そうならないようにか、善大王が率先して拍手をする。続き、ラグーン王やライカ、周囲もそれらに呼応するように拍手を重ねてゆく。

 会場一杯、この三人の中で最も大きな拍手を受け、フィアは善大王へと眩しいばかりの笑みを浮かべた。


「(フィア、よくやったな)」

「(また、助けてもらっちゃったね)」


 今にも抱き合いそうなムードの中、善大王はばつの悪そうな顔で思考する。


「(それとフィア、祭りの最初らへんは遊べないが、大丈夫か?)」

「(えっ、なんで)」

「(愛故に、だ)」


 良く分からない答えではあったが、フィアは納得した。


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