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最深部と思われる場所に到着すると、善大王は息を呑んだ。
無数の水槽と思わしき物──分厚い立方形のものから、薄いものまで千差万別──が転がり、ラグーン城に匹敵しかねない高さの壁を作り出している。
連ねられたゴミのようでもあるが、それらが落ちてくるようには見えない上、こちらは劣化しているようにも見えなかった。
「なんだ、これは」
「モニター、ってものじゃん? たぶん、元の世界なら画像を表示できたらしいし」
長時間待つこともなく、それは来た。
置かれていたモニターの電源が一斉に付き、モザイクアートのように一体の獣──《神獣》の姿を表示する。
『ようやく来たのか。一応は実在しているのだから、軽視してほしくはないのだがねぇ』皮肉気味に、青年のような声は言った。
全身から鋭い紫電の体毛が伸び、馬と龍が融合したような外見の長首四足獣。
頭部には生命感を強く感じさせ、鉱物のようなに見えるという、矛盾した印象を抱く仮面が取り付けられていた。
仮面を除けば、その姿は巨大なウルティホーン。彼こそが、雷の《神獣》ゴルドだ。
「別に御利益とかないんだし、当然じゃん?」
『言ってくれるねぇ。それで、そいつは?』
「俺は善大王だ」
自己紹介をした途端、ゴルドは仮面の奥にある紫色の瞳を光らせる。
『ずいぶんな男がきたものだな。まったく、久しいものだ』
「かつて、善大王がここにきたのか?」
『ああ、きたともさ。お前のような男ではなく、清楚な美女だったが』
《皇》に女性がなることもあるのか、と地味に知識欲を刺激された善大王だったが、時間も時間なので急く。
「ライカ、早めに儀式を終えてくれ」
「心配はいらないし……でも、まぁ、しろっていうなら……するし」
どこか余所余所しいライカは、ゴルドとなにかを話し始めた。
内容がわからないではないにしろ、彼は深く介入するべき会話ではないと判断し、おおよそを聞き流す。
結局のところ、祭りの目玉を手伝わせる、というだけの話なのだが。
そうして会話を終えると、ライカは善大王の隣に立った。
「じゃあ、帰るし」
「……そうだな」
帰り道、彼女は一言も口を聞かず、黙って歩く。
しかし、あと少しで雷の国に到着するという時になって、ようやく言葉を発した。
「善大王。明日のお祭り、一緒に回らない?」
それはつまり、愛の告白にも近い言葉だった。
フィアがいる状況、アルマがいる状況。そこで自分を選べ、そう言っているのだから。
独占欲や略奪愛などではなく、彼女は純粋に、善大王に恋をしたのだ。
「……ああ、わかった」
善大王がそう言うと、ライカは胸を抑え、小さな笑みを浮かべる。
きっと、心臓が破裂するくらいに鼓動が加速していたのだろう。それだけ、覚悟が必要だったのだろう。
そんな彼女とは対照的に、善大王は愛の言葉を聞きながらも感情を揺らすことなく、星の散らばる空をみていた。




