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大空のフィア  作者: マッチポンプ
前編 七人の巫女と光の皇
34/1603

4

 《暴食の鎖》の影響か、まだソウルは安定していないが、それでも大抵の敵には負ける気がしない。もう、ティアとの戦いのような真似をする気もない。

 水の国の建国からそう経たない内に建てられたという闘技場。とても立派で、歴史的価値もあるとは分かりながらも、今は観光気分にはなれない。


「俺の相手は誰だ?」

「私だ」


 ヘルムの男は壁に立てかけられていた薙刀を手に取ると、こちらに手で合図を送ってきた。


「いや、俺はいい」

「そうか。では、早速始めよう」


 ソウルの安定はまだ六割程度。ただ、それでもただの兵士程度であれば十分だろう。

 試合開始の合図はないらしく、ヘルム男はこちらに突進を仕掛けてきた。速度は速いが、それでも回避は可能な速度だ。

 俺は右手に導力を収束させ、同時に《魔導式》を展開していく。

 一発回避するが、案の定、横薙ぎに移行してきた。ただ、それに関しても導力で覆われた俺の右手が弾き飛ばす。


「やるね」


 声の調子が変わったことに気付きながらも、早速俺は第一撃目を放つ。


「《光ノ二十番・光弾(ライトショット)》」


 俺の十八番が発動し、ヘルム男の胴体に向って光弾が放たれた。

 本来、回避することはかなり困難。発動前の前兆を探るしかないのだが、ヘルム男はこれをきっちりと避けてきた。

 術者戦に不足はない、ということか。面倒になってきたな。

 並行して《魔導式》を刻んでいくが、相手のヘルム男も青い《魔導式》を展開してくる。


「《光ノ二十番・光弾(ライトショット)》」


 光弾を薙刀で叩き落とし、ヘルム男は俺の懐に潜り込んできた。


「《水の二十番・液杖(リクイッドロッド)》」


 掌より水が発生し、それが棒状に姿を変える。威力は大したことはないが、一発受ければ隙を作ってしまう。

 敢えてヘルム男に近づき、突き飛ばす。それによって術は不発に終わり、そのまま俺の拳が伸びる。

 胸部に一撃を食らい、ヘルム男が吹っ飛ぶ。導力を完全に纏わせられなかったが、強化自体はされている。


「ハッ、これが善大王の実力かぁ。面白いね」

「楽しんでいる余裕があるのか?」

「もちろん……だけど、ここまでだね」


 ヘルム男が後方に飛んだ瞬間、地面に刻まれた《魔導式》が目に入る。既に上級術の量が揃っていた。


「なっ――」

「《水ノ百三十九番・水龍弾(スプラッシュキャノン)》」


 多量の水が龍の(あぎと)を思わせる形に変化し、その開口部より数発の水弾が発射される。

 水属性は癒しに特化した属性だ。攻撃力に関しては光属性にすら劣る。

 だが、それが上位術となってくれば話は別。人を殺すには十分すぎる火力だ。

 しかし……術に関しては極めたと言っていい俺が、上級術の魔力を見逃していたと思うか?


「《光ノ百十一番・星粒壁(スターダストウォール)》」


 完全な意趣返し、こちらも同様の方法で《魔導式》を展開していた。

 水弾が光の壁に遮られ、完全に無力化していく。そして、蓄積されたエネルギーには攻撃性が宿る。

 鋭い光の矢が反撃として放たれ、ヘルム男のヘルムだけを溶かし、顔から引き剥がした。


「その髪……やっぱり、王族だったか」


 シアンのそれには及ばないが、しっかりとした水色の髪。俺程ではないが、整った顔つきをしている。どちらかというと童顔っぽくもあるか。

 ただ、何よりも気になるのはその瞳。片方は青色なのだが、もう片方は緑色をしていた。所謂オッドイアイ、珍しいものだ。


「あらら、気付いていたんだ。さすがは善大王様、とっぽいなぁ」

「勝負は決着、でいいな? 俺としても理由があったからって王族を殺したら面倒だ」

「ま、妥当だろうね。でも、甘いなぁ……僕なら殺してたよ」


 水の国の王――フォルティス王の顔からは純粋さを感じた。年はおそらく俺よりも少し若い程度だろうが、純粋無垢な子供を想起させる表情だ。


「俺とフォルティス王はタイプが違うんだよ。それで? 俺は釈放されるのか?」

「もちろん。善大王様ほどの使い手と戦えて楽しかったよ」


 その態度をみて、俺は嫌気がさした。


「シアンは良いって言ったのか?」

「シアン? ああ、彼女ならば構わないよ」


 この男は、娘であるシアンになにも思っていない。

 きっと、俺を捕まえたのも自分の娘に手をあげられたからもでもなく、城下町の治安が乱れたからでもなく、自分が楽しみたかっただけなのだろう。


「なら、帰らせてもらう」

「休んで行ってもらっても構わないけど?」

「ああ、十分に休ませてもらったさ。素晴らしいお部屋でな」


 嫌みだけを吐いて、俺は闘技場を後にした。


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