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「何かいるみたい」
「だな」
話し最中にも襲撃者の存在に気付く辺りは、曲がりなりにも《星》と《皇》と言うべきか。
ただ、相手も無能ではないのか、擬態の《魔技》──スケープのそれとは違い、気配察知が可能なもの──を解除した。
黒いポンチョを纏った三人の男──真ん中の男はフードを目深に被っている──が突如として眼前に現れるが、二人は焦らない。焦りはしないが、両者とも明確な感情の変化を見せてはいたが。
「(なによ、こいつら。邪魔だからすぐに消しちゃうし)」
「(盗賊……いや、こいつらの気配はそんなものじゃない。それに、連中ならばこんな直接的な行動はしないはずだ)」
全盛期の盗賊ならばまだしも、近代の盗賊はかなりおとなしいもので、盗みこそすれど殺人などはそうそう行わない。
情報筋によれば、ボスが代わってから、盗賊の動きも大幅に収まったということになっていた。
完全フリーの冒険者がいないのと同じように、盗賊にも縄張りなどの関係で、ギルド加入が半ば強制である。だからこそ、ボスの変化一つで時代に大きな変化をもたらすのだ。
「お前らは何者だ」
「我らは組織の人間。貴様らを消す為に派遣された」
組織という名前が出た途端、善大王の顔色が変化した。
そう、彼はこの時点で、組織が完全に別個で存在する集団だと判断したのだ。
スタンレーの告げた言葉の意味、善大王ですら知り得ない謎の組織の存在……。
「(こいつらから情報が引き出せるか?)」
僅かな迷いが過ぎった瞬間、二本の雷撃がまだ喋っていない二人の男を撃破した。
「善大王、さっさと終わらせるし」
「……わかった」
少女を軽視していたわけではないにしろ、善大王はこの場面に限り、情報の収集の優先度を高めていた。
だが、ライカに声を掛けられた瞬間に、自分の本懐を思いだし、あえて機会を棒に振る。
「(俺の仕事は、ライカの管理だ。世界の今後としてではなく、俺は幼女の今を守る)」
善大王とライカが《魔導式》を展開し始めると同時に、正面に立っていた男は構えを取った。
その手には、拳銃──シリンダーの付いた、銃身の短いもの──が握られている。
コイル状の樹脂紐が銃底とベルトを繋いでいるからか、遠くに弾き飛ばすことができない類のものだ。
導力攻撃でも弾き飛ばせないと判断し、善大王はライカを抱えて回避しようとする。
しかし、そこは《武潜の宝具》。ただ引き金を引くだけで、この世界に流通する模造品のそれを遥かに上回る弾丸を発射した。
かつてエルズが放った闇ノ四十五番・死弾ですら、人間の反射神経を上回る速度だったが、今回の攻撃手は少女ではない。
ドサッ、と人の倒れる音が周囲に響いた。障害物が少なく、草原ということで草擦れ音しかしないだけに、余計に音は目立つ。
……ただ、倒れていたのは一人ではない。善大王とライカの両名。
「……っ」
「あぶない、あぶない。幼女の柔肌を、そんな薄汚い鉛玉で汚されたらたまらないからな。ここは、お兄さんが代わりに受け取っておこう」
押し倒れたライカは驚愕と混乱、さらに羞恥で顔を真っ赤にした。
「な、なにするし! こんな時に……また……前みたいに……」
気取ったような顔、口調で告げる善大王を見て、ライカは無自覚に調伏してしまいそうになる。
日々わがままに生きているからか、彼女はこうしたことに耐性がないのだ。だからこそ、捕まることも多々ある……とはいえ、以前の件もそうだが、意外に押しには弱いだけなのかもしれない。
だが、すぐにそうではないと気付く。




