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アルマの魔力を追い、全力疾走をしていた善大王だが、急におとなしくなったライカが面倒そうに告げる。
「なんでそんなに急いでんの?」
「一国の姫、それもライカと違って強いわけじゃない」
「アルマなら大丈夫じゃん?」
「アルマは戦えない。だからこそ、まずい」
実際はトニーを相手に、一方的な不利に陥らない──アグリアスの支援を込みだが──程度の実力は持つ。おおよそ心配など要らないのだ。
ただ残念なことに、彼はそれを知らない。
封印術を得意としていることは読めたとしても、高まる魔力の量を計らないことには底知れないのだ。
切羽詰らない限りは戦わないこともあり、善大王の読み──少女としてのか弱さ──はさほど間違っていないとも言えるが。
本気で心配している善大王に対し、答えを知っているとばかりに、あけらかんとライカは言った。
「大丈夫だし! ライムが歩いているところを見かけて、追跡を続けているらしいし」
「ライカ、それどこで聞いたんだ?」
「フィア経由で聞いたし」
そうなると、嘘である可能性は薄い。
「う、うん。それならいいんだがな……よし、じゃあ仕事に行くぞ!」
アルマ捜索にはさほど時間を割いていない為、大局に影響はなかった。
とはいえ捜すというスタンスを崩し、監督という立場に戻るのは、なかなかにすっきりしないものだっただろう。
「……はぁ、あんま気乗りしないし」
「いや、まぁその気持ちはわかるが、そこは大人になってくれよ」
「大人になれ? アタシは大人だし! 悪女だしー! なめんなー!」
本人は魅力で男を操る悪女に、大人という印象を持っているようだが、本当の悪女はそうではない。
ついでに言うと、彼女が思い浮かべているのは、遊び慣れている若い娘──つまり悪女というよりかは不良娘だ。
「とりあえず、いくぞー。肩車とかするか?」
「子供扱いすんなー! フンッ! 自分で歩けるし!」
意外と──そうでもないが──煽りに耐性がないらしく、あっさり丸め込まれるライカ。
彼女には善大王の如く、うまい具合にリードしてくれる相手が似合いそうではある。私見ではあるが。
今回の仕事は簡単だ。ライカがおとなしく仕事をしている限りは。
雷の国の姫として各作業現場に赴き、激を飛ばすことだ。
暴れ回っては誘拐され、と良い印象のないライカだとしても、姫が直々に来たとあれば士気は上がる。
善大王は遠巻きから、彼女が何かを話す様子を確認していた。
妙に偉そうに胸を張っているが、そんな態度でも場の空気が和んでいたのは分かる。当の本人としても、どう思われているかを理解しないにしても満足げだ。




