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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
333/1603

5

 もちろん、善大王の察知能力があればライカを見つけることは難しくない。

 本気で探し始めてから、出店二軒を巡る前にライカの姿を捉えた。


「アルマ! ここのお店で待っていてくれ」

「はぁい! ちゃんと型抜いておくよぉ」


 机の上に金貨を数枚置くと、全速力で駆け出す。

 人の動き、その規則性を出店の配置から判断し、速度をほとんど落とすことなく、人の隙間をつき進んだ。

 明らかに異様な動きだったこともそうだが、ライカは魔力すら放たれていない善大王の気配に気づく。


「ぎゃああああ! 捕まっちゃうしぃい!」


 かなり必死な様子で逃亡するが、人の流れを察していた善大王があっさり追いつき、首根っこを捕まれる──ことはなく、普通に手を握られた。


「おいライカ! ラグーン王が探していたぞ」

「はーなーせー! アタシも祭りめーぐーるーしー!」

「そんなの後にしろ! 祭りで仕事があるんだろ?」

「子供は仕事しないしー!」


 げんこつ──ではなく、すぅっと中指でライカの尻を撫でる。もちろん、スカートの中から。


「ひゃあ! な、なにするし! 最低! 不審者!」

「なんかそれ、聞いたばっかりな気がするぞ……」


 少し前にフィアから近い内容のことを言われたこともあり、善大王は少しだけ落ち込む。

 とはいえ、それでライカを逃がすはずもなく、しっかりと間接を固定して逃亡を阻害していた。


「な、仕事に向かうぞ」

「やーだーしー!」

「後で祭りに付き合ってやるから」


 途端、ライカの動きが止まる。


「マジ?」

「マジだ」

「ブラック?」

「マジシャ──違う! 本気だ!」

「護衛は?」

「つかない。俺一人だ」

「最後まで付き合う?」

「付き合う、ちゃんと付き合う」

「フィアより優先して?」

「もちろんだ」


 かなり疑り深かったが、それで納得したらしく、冷静さを取り戻した。


「なかなかいいじゃん。じゃあ、仕事してあげるし」

「はは、どうも」


 もちろん、少女の心ならお任せの善大王。こうすればライカが納得し、仕事をする、という言葉を選択している。


「(グフフ、フィアの男を寝取ったみたいで、なんか気分いいし! アタシ、悪女みたいでかっこいいじゃん!)」


 などと、アホなことを考えていることもお見通しで、それを理解したつもりで祭りに付き合う予定まで決めていた。


「仕事を前に、アルマを連れ戻しにいっていいか? 今型抜き屋にいるからさ」

「アルマ……」

「友達だろ?」

「うーん、めんど──迎えにいくし!」

「はいよ。ありがとさん」


 ライカは善大王の手を繋ぐと「これなら、アタシが逃げられなくて、アンタも安心じゃん?」と言う。

「ああ、安心だ」


 一見すると悪い返しだが、善大王はむしろ一手先を見ていた。


「(これだから男はチョロいし。アルマの前でイチャイチャ風の演技をして、フィアをびっくりさせてやるし。くぅーアタシって悪女!)」


 どうにも、悪女に憧れを抱いているらしく、ライカは悪ぶっていた。そんな滑稽な悪女風の態度に、善大王は内心ほくそ笑んでいる。


「(こういう、子供っぽい浅はかな作戦にはまるのも、なかなかいいよなぁ)」


 少女至高主義者の彼からすれば、少女のみせる子供らしい一挙手一投足全てが、とてもすばらしく見えているのだろう。


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