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もちろん、善大王の察知能力があればライカを見つけることは難しくない。
本気で探し始めてから、出店二軒を巡る前にライカの姿を捉えた。
「アルマ! ここのお店で待っていてくれ」
「はぁい! ちゃんと型抜いておくよぉ」
机の上に金貨を数枚置くと、全速力で駆け出す。
人の動き、その規則性を出店の配置から判断し、速度をほとんど落とすことなく、人の隙間をつき進んだ。
明らかに異様な動きだったこともそうだが、ライカは魔力すら放たれていない善大王の気配に気づく。
「ぎゃああああ! 捕まっちゃうしぃい!」
かなり必死な様子で逃亡するが、人の流れを察していた善大王があっさり追いつき、首根っこを捕まれる──ことはなく、普通に手を握られた。
「おいライカ! ラグーン王が探していたぞ」
「はーなーせー! アタシも祭りめーぐーるーしー!」
「そんなの後にしろ! 祭りで仕事があるんだろ?」
「子供は仕事しないしー!」
げんこつ──ではなく、すぅっと中指でライカの尻を撫でる。もちろん、スカートの中から。
「ひゃあ! な、なにするし! 最低! 不審者!」
「なんかそれ、聞いたばっかりな気がするぞ……」
少し前にフィアから近い内容のことを言われたこともあり、善大王は少しだけ落ち込む。
とはいえ、それでライカを逃がすはずもなく、しっかりと間接を固定して逃亡を阻害していた。
「な、仕事に向かうぞ」
「やーだーしー!」
「後で祭りに付き合ってやるから」
途端、ライカの動きが止まる。
「マジ?」
「マジだ」
「ブラック?」
「マジシャ──違う! 本気だ!」
「護衛は?」
「つかない。俺一人だ」
「最後まで付き合う?」
「付き合う、ちゃんと付き合う」
「フィアより優先して?」
「もちろんだ」
かなり疑り深かったが、それで納得したらしく、冷静さを取り戻した。
「なかなかいいじゃん。じゃあ、仕事してあげるし」
「はは、どうも」
もちろん、少女の心ならお任せの善大王。こうすればライカが納得し、仕事をする、という言葉を選択している。
「(グフフ、フィアの男を寝取ったみたいで、なんか気分いいし! アタシ、悪女みたいでかっこいいじゃん!)」
などと、アホなことを考えていることもお見通しで、それを理解したつもりで祭りに付き合う予定まで決めていた。
「仕事を前に、アルマを連れ戻しにいっていいか? 今型抜き屋にいるからさ」
「アルマ……」
「友達だろ?」
「うーん、めんど──迎えにいくし!」
「はいよ。ありがとさん」
ライカは善大王の手を繋ぐと「これなら、アタシが逃げられなくて、アンタも安心じゃん?」と言う。
「ああ、安心だ」
一見すると悪い返しだが、善大王はむしろ一手先を見ていた。
「(これだから男はチョロいし。アルマの前でイチャイチャ風の演技をして、フィアをびっくりさせてやるし。くぅーアタシって悪女!)」
どうにも、悪女に憧れを抱いているらしく、ライカは悪ぶっていた。そんな滑稽な悪女風の態度に、善大王は内心ほくそ笑んでいる。
「(こういう、子供っぽい浅はかな作戦にはまるのも、なかなかいいよなぁ)」
少女至高主義者の彼からすれば、少女のみせる子供らしい一挙手一投足全てが、とてもすばらしく見えているのだろう。




