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武器一つ持たず、殺気すら放たない存在。善大王が軽く話しかけたことから分かる通り、危険な存在ではない。
「仕事だ、王から任された」
どうにも、この男も警備隊の人間のようだ。それを根拠付けるように、服装が倒れていた男達と同じである。
唯一の差異として、鏡面のバイザーで目の部分が完全に隠されたヘルム──フルフェイスヘルメットというらしい──を付けていた。これでは人相や感情は探れない。
ただ、最初は刺客かアルマを狙う者と見ていただけに、拍子抜けだったに違いない。
「……早急に任せたい、姫の管理を」
腕に付けられた腕章をみて、その人物がどのような役割を背負っているのかも判明した。
「なるほど、お前が前任者か。それとも、数人いるのか?」
「……私一人だ」
「(ってことは、倒れていた奴は違うのか)」
カマを掛けていただけに、善大王としては疑惑が強まる。
「……彼らに代理を任せようとした。誰も姫を止められなかった」
「だろうな……やっぱりライカか」
未だにアルマは理解していないが、彼は初めからこの展開を理解していた。
ベストのダメージは雷撃の衝撃、服は全て絶縁体に近い加工が成されていたのだろう。雷属性の国だけに、その対策は他国の比ではないはず。
だからこそ外傷はなく、衝撃だけで気絶するという状況に陥っていた。
「まったく、ライカは困ったお姫様だな」
「姫様のことが分かるはずもない、他国の人間には」
冗談のような言葉への返答にしては、それを理解していないかのような憤りが含まれている。
顔が見えずとも、声色が変わらずとも、相手が体から発する怒りというものは伝わってしまう。
すると、善大王もそれに応えるかのように、険しい顔付きになる。
「はっきり言う。客観的な意見だ……俺にはとても、ライカがいい姫とは思えない。部下に暴力を振るうなど愚の骨頂だ」
「善大王さんひどいよぉ。らーちゃんだっていいところあるよぉ!」
ライカの友達である為、アルマは抗議してきた。
「粗野だとしても……姫様に仕えたいと思っている、私だけではない警備隊の多くが」
「それは、プライドか?」
「喜びだ、姫様の支えになることへの」
口調こそ面倒だが、善大王は彼の言葉で全てを察する。
「……すまなかった、ライカを悪く言いたかったわけではないんだ。ただ、ここまで愛されているなら、心配は無用だったな」
彼の表情が軟らかくなったこともあり、男の気配も静まった。
この最後の言葉一つで、ライカのことを心配していたことが十分似伝わったのだろう。
男は腕章を外すと、善大王に差し出した。
「フランクだ、私の名は」
「ああ、姫は任せておけ」
互いに握手を交わした後、両者とも背を向け、善大王はアルマの手を繋いで歩き出す。
「ねぇ、あの人と喧嘩してたのぉ? 仲直り、ちゃんとできたぁ?」
「ああ、できたとも」
彼は悟っていた。今の男、フランクがかなりの使い手であることに。
「(あのような男がいて、ライカを捕まえ切れていないのか……実際、本当に困った姫だな)」
それに関しては試していたわけでもなく、彼の本心だった。




