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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
332/1603

4

 武器一つ持たず、殺気すら放たない存在。善大王が軽く話しかけたことから分かる通り、危険な存在ではない。


「仕事だ、王から任された」


 どうにも、この男も警備隊の人間のようだ。それを根拠付けるように、服装が倒れていた男達と同じである。

 唯一の差異として、鏡面のバイザーで目の部分が完全に隠されたヘルム──フルフェイスヘルメットというらしい──を付けていた。これでは人相や感情は探れない。

 ただ、最初は刺客かアルマを狙う者と見ていただけに、拍子抜けだったに違いない。


「……早急に任せたい、姫の管理を」


 腕に付けられた腕章をみて、その人物がどのような役割を背負っているのかも判明した。


「なるほど、お前が前任者か。それとも、数人いるのか?」

「……私一人だ」

「(ってことは、倒れていた奴は違うのか)」


 カマを掛けていただけに、善大王としては疑惑が強まる。


「……彼らに代理を任せようとした。誰も姫を止められなかった」

「だろうな……やっぱりライカか」


 未だにアルマは理解していないが、彼は初めからこの展開を理解していた。

 ベストのダメージは雷撃の衝撃、服は全て絶縁体に近い加工が成されていたのだろう。雷属性の国だけに、その対策は他国の比ではないはず。

 だからこそ外傷は(・・・)なく、衝撃だけで気絶するという状況に陥っていた。


「まったく、ライカは困ったお姫様だな」

「姫様のことが分かるはずもない、他国の人間には」


 冗談のような言葉への返答にしては、それを理解していないかのような憤りが含まれている。

 顔が見えずとも、声色が変わらずとも、相手が体から発する怒りというものは伝わってしまう。

 すると、善大王もそれに応えるかのように、険しい顔付きになる。


「はっきり言う。客観的な意見だ……俺にはとても、ライカがいい姫とは思えない。部下に暴力を振るうなど愚の骨頂だ」

「善大王さんひどいよぉ。らーちゃんだっていいところあるよぉ!」


 ライカの友達である為、アルマは抗議してきた。


「粗野だとしても……姫様に仕えたいと思っている、私だけではない警備隊の多くが」

「それは、プライドか?」

「喜びだ、姫様の支えになることへの」


 口調こそ面倒だが、善大王は彼の言葉で全てを察する。


「……すまなかった、ライカを悪く言いたかったわけではないんだ。ただ、ここまで愛されているなら、心配は無用だったな」


 彼の表情が軟らかくなったこともあり、男の気配も静まった。

 この最後の言葉一つで、ライカのことを心配していたことが十分似伝わったのだろう。

 男は腕章を外すと、善大王に差し出した。


「フランクだ、私の名は」

「ああ、姫は任せておけ」


 互いに握手を交わした後、両者とも背を向け、善大王はアルマの手を繋いで歩き出す。


「ねぇ、あの人と喧嘩してたのぉ? 仲直り、ちゃんとできたぁ?」

「ああ、できたとも」


 彼は悟っていた。今の男、フランクがかなりの使い手であることに。


「(あのような男がいて、ライカを捕まえ切れていないのか……実際、本当に困った姫だな)」


 それに関しては試していたわけでもなく、彼の本心だった。


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